第18話 秋

 季節は秋、収穫の時期が到来し、各家庭も収穫に追われ忙しい日々が続いている。一面の黄金に輝いて見える小麦畑が収穫され、所々土色が入り混じりだすこの頃。


 今日は新米ならぬ新小麦粉を使ったパンを食べ、アリシア母さんの作った朝食を食べながら、今日の予定を考える。


 収穫などがひと段落すると各村で収穫祭が行われるので、外部からの人も増える。そのため宿や食堂などは大忙しとなるそうだ。市なども行われるので、ノエルの父親であるイシス男爵もその対応に追われているみたい。


 僕の父親であるエドウィン父さんも警備の打ち合わせのため、連日詰めている。


 そんな回りが忙しいなか、僕やノエルなどまだ子供組は農家の子供でもないので、のんびりと収穫祭を楽しみにしているところだ。


「お兄ちゃん、収穫祭ってどんな感じなの?」


 去年の収穫祭のときは1歳になったばかりだったので、アリシア母さんと一緒に家にいたシンシアは、今回が初参加となる。


「市を豪華にした感じ?村以外の人も来るから、人が多くなるよ」


 実際村人以外の人も商売のため、市に店を開くので、いつもとは違う品が市に並んだりする。


「そうなんだ、綺麗な髪飾りとか売ってるといいなぁ」


 2歳になったシンシアは最近オシャレに目覚めたらしく、亜麻色の髪を色々な髪飾りで装飾するのがお気に入りみたいだ。ノエルにも時々やってあげているようだが、ノエルは興味がないらしく、自分では特にやらない。いつもはカエラさんに整えてもらっているらしいからな。


「父さんが警備を頑張っているだろうけど、本当に人が多いからちゃんと母さんと一緒に回るようにな」

「お兄ちゃんは?」

「ノエルと合流してから一緒にかな。デリアさんはルイスくんとお留守番だろうし」


 メイドであるカエラさんやタミルさんも収穫祭は領主でもあるアウルム家なので、色々仕事で自由に収穫祭に参加できない可能性もある。ノエルも母さん達と一緒の方が、デリアさんも安心だろうしな。


「ノエルお姉ちゃんやデリアさんにも早速予定を確認しに行こうよ」


 そう言いながら、早速オシャレして出掛けようとするシンシア。まだ朝食を食べ終わったばかりなのだが。


「待ちなさい、シンシア」


 案の定アリシア母さんから待ったがかかる。基本農村の朝は早く忙しい。朝の農作業が終わると、家庭の家事仕事などもあるし、大きい畑なら午後も畑仕事だ。


 うちの場合は父さんが警備隊の隊長をしているので、畑もあるがそんな手間のかかるものではなく、家庭菜園程度だし、冒険者だったので蓄えも豊富だ。


 なので比較的自由な時間が多いのだが、家事仕事はそれなりにあるし、何より現代日本と違い何か手に職を付けるのが当たり前の世界だ。


 シンシアは3歳になったし、もう物事もはっきりと認識できるようになったので、母さんが家事を手伝いさせながら教えたり、今年の冬場は編み物などを一緒にしようと考えているようだ。それがシンシアはあまり得意ではないようで、理由をつけて逃げようとしているのだ。


 僕が1歳になる前から魔法を覚えようとしているなど、早い段階で母さんから色々習っていたので、母さんには2歳でも遅く感じているようだが、そこはシンシアにはごめんというしかない。


「僕も手伝うから、一緒にやろうシンシア」

「は~い」


 シンシアも逃げれないとわかっているので、素直に応じる。シンシアも得意ではないだけで、やろうと思えばできるのにな。母さんもそれがわかっているので、苦笑するしかないのだけど。






 3人で一緒に家事を終え、僕はノエルと会った時からシンシアも魔法の練習を始めたので、シンシアに魔法を教える。今では懐かしい魔素を感じる訓練である魔素流しをシンシアに行っているのだ。


 通常は5歳から始める魔法を2歳から始めているので、この世界でも早い段階での練習になるが、シンシアは最近始めただけあって、まだ魔素を感じることができない。


 母さんにやってもらっていた魔素流しを妹にすることになるなんて感慨深いものがあるが、あれからもう4年くらい経ったのか。


 魔素を流しながら昔のことを思い出し懐かしむが、まだ5歳にもなっていない自分が考えることじゃないなと思い、意識をシンシアに向ける。


 目を閉じて意識を集中させているようだが、まだ魔素を感じ取れてはいないようだ。これはすぐできることじゃないからな、焦らずにやってもらいたいが、しかしこの体勢は何とかならないものか……


 普通は手を取ってやればいいので、向かい合ってやるのが普通だが、なぜかシンシアは僕の足の間に座り、僕に寄りかかりながらやりたがる。


 僕が赤ちゃんだったころは母さんに抱えられながらだったので、この体勢でも違和感がないが、シンシアの場合は必要ないと思うのだが、最初は普通に向かい合ってやっていたのに、母さんに僕の魔素流しのことを聞いてからこの体勢をお願いするようになった。


 どんな体勢でも同じだと思うのだがなぁ。






 午前も終わり、昼食を食べたあと、朝に言っていた収穫祭の予定をノエルに伝えるため、僕とシンシアは母さんと一緒にアウルム家へと向かう。


 領主の屋敷にこんな気軽に行けるのも、母さんとデリアさんが同じ冒険者仲間で親友だからだ。


 シンシアは領主の屋敷に行くというよりもノエルの家へ遊びに行く感覚であるだろうが。


 歩いて約10分、小高い丘の上にあるアウルム家へと到着した僕達3人は、急に来たのにも関わらず、デリアさんとデリアさんに抱かれたノエルの弟ルイスくん、カエラさんとノエルに快く出迎えられた。


 みんなでリビングルームへ移動し、カエラさんはお茶の準備へ。柔らかい上質なソファーに座りながら、挨拶を交わしたあと、カエラさんが淹れてくれた紅茶を飲んでまったりしたあと本題にはいる。


「収穫祭のときにノエルお姉ちゃんと一緒に行こうと思って誘いに来たの」


 シンシアがノエルに収穫祭の誘いを話したあと、アリシア母さんがデリアさんへ詳細を話す。やはりデリアさんは収穫祭の日はルイスくんと一緒にお留守番をするみたいで、カエラさんはその付き添いと、カエラさんの母親であるタミルさんはイシスさんの補助に回るみたいで、収穫祭時は村長の家へ行くそうだ。


 収穫祭のときの運営陣は村長宅の近くにある集会所へ詰めるらしく、村長と領主であるイシスさんは村長宅で何かあったときのために待機するみたい。


 タミルさんはイシスさんと一緒に村長宅へ行くので、カエラさんはルイスくんがいる領主宅に待機となる。


「そうね、ノエルもそれでいいかしら?」

「フィルと行くつもりだったから、大丈夫」


 うん、まぁ去年もそうだったからね、聞いてないけどそうなんだろう。去年は僕とノエルとカエラさんで一緒に収穫祭に行った。デリアさんの妊娠したのに気づいたころだったので、まだお腹が大きいわけでもなく、普通に生活を送れたため、カエラさんが付かなくても問題なかったが、ルイスくんが今年はいるので、そのお世話のためにカエラさんが館に残ることになる。


 ノエルを留守番させるよりも僕達と一緒の方がいいだろう。デリアさんもこの提案にはすぐに了承して収穫祭の予定が決まった。


 そして話題は生まれたばかりのルイスくんへ。まだ生まれてから4ヶ月経ったくらいの赤ちゃんだ。


「そろそろ生まれてから4ヶ月経ったかしら。やっと首がすわってよく笑うようになったのよ。ノエルのときはもう座ったりしてたから、やっと一安心って感じね」

「それだけノエルちゃんの成長が早かったのよ。初めての子供だからそのまま受け入れてたけど、フィルとノエルちゃんの成長の早さには2人目の子供が出来ると改めてすごいと思ったわ」


 アリシア母さんが苦笑しながら、ノエルと僕を見る。まぁ前世の知識があるからな、それでも僕は自重したつもりだけど、ノエルは自重してるか怪しいもんだ。種族特性で誤魔化した感が否めない気がする。


「そうね、夜泣きって結構大変ね、ルイスを育ててみると、ノエルは本当に手がかからなかったわ」

「フィルもそうね、シンシアも結構夜泣きが多かった印象なのは、たぶんフィルが夜泣きをあまりしなかったせいだと思うわ」


 同じ2人目を生んだ母親として、同じ苦労をしている分話が合うのはわかるが、本人のいる前であまり言わないでほしい。なんか恥ずかしい。


 カエラさんが焼いてくれたクッキーを食べながら、そんな思いをしている僕と違い、ノエルは我関せず、いつも通りクッキーと一緒にサンドイッチを食べている。さっきお昼食べたんだよね?まだ2時間くらいしか経ってないよ。


 シンシアは僕とノエルの赤ちゃんの頃の話に興味があるのか、2人の母親の話を聞いているみたいだ。


 収穫祭の予定も決まったし、今日の午後の魔法練習は中止になるかな、などと僕は違うことを考えながら収穫祭前の午後を過ごしたのであった。

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