第40話 西の森

「木材の数はこれくらいで十分かな」

「そうね、魔法があると2人でもなんとかなるものね」

「伐採も持ち運びも魔法で済むからねぇ。アイテムボックスの魔法が使えるように頑張った甲斐があったよ」

「そうね、わざわざこんな人気のないところで伐採しなくてもいいなら、同意できたかもね」

「……」


 昨日は帰ってきた父さんに、同じように小屋作成の同意をもらうことが出来た。予想通り特に反対することもなく、目的と方法を聞いた後は頷くだけだった。晩酌の相手をしたおかげかもしれないが、終始機嫌がよかった気がする。


 今日はいつも通り剣の稽古を終えると、ノエルと一緒に西の森の表層で、小屋建築に使う原木の伐採をしに来た。


 村から西の森に向かう際に、村の外を監視している自警団の人に話しかけられたが、以前模擬試合を見ていた人らしく、僕達の実力もわかっているため、引き留められることもなく挨拶だけして森に向かうことが出来た。


 まぁ普通は5歳児が2人で大人も連れずに森へ行くのは止めるだろうな。子供達だけで採取する森というか林なら、こちらじゃなくても北か南にいけばある。


 西の森の表層が安全だと言っても、それは魔物が出なかった場合や、獰猛な野生動物が出なかった場合だけだ。西の森の表層は奥が魔物の森になっているので、他よりも野生動物が表層側に出やすい。警備の監視やこちらに来る理由を聞くのも、自警団の仕事になるのだ。


 僕達は西の森の表層でも、村からは見えない位置で伐採をしている。それは僕のアイテムゲートが派手なので、見られるのがちょっと恥ずかしいかったというのもあるし、そもそもアイテムボックスの魔法が希少な魔法なので、人に見られたくないというのもあった。


「素材も集まったし、そろそろ帰ろうか」

「え~、折角来たのに魔物とか討伐してみたいわ」


 僕達はまだ魔物を討伐したことはない。自警団が倒した魔物は見たことがあるが、猪型の魔物でフォレストボアというらしい。森の奥に生息する魔物で、肉が上質で鍋にして自警団のみんなで食べたのを、訓練に参加していたときだったので、一緒に食べたのだ。あれは美味しかったなぁ。


「何かあったときに怒られるの嫌なんだけど……」


 僕が否定的なことを言うと、それを見越したようにノエルが反論する。


「私達の実力で何かある様な魔物なら、それはもう自警団が隊組んでの案件じゃない。怒られる云々の問題じゃないわよ」

「それはそうだけど……」

「フィルも魔石が欲しいって言ってたじゃない。ちょうどいいからそれも取っていきましょ」


 そういうとそのまま僕の手を取り、森の奥へ進む。はぁ……仕方ないか。


「マナアナリシス」


 僕は周囲の情報を集めるため、魔法を使う。『マナアナリシス』は周囲に自分の魔素を飛ばし探知した情報を解析するために作った魔法だ。魔力領域内に入れば、それがどんな形状や魔素状態かを感知できるのだが、それだと範囲が狭すぎる。


 そこで周囲に自分の魔素を意図的に拡散させることで、対象魔素を探知しようとしたのが『マナアナリシス』だ。攻撃性を0にし、探知能力を上げ、隠密性能を上げることで、相手に気づかれないように探索を行う事を目的として作成した。


 ノエルにも教えたけど、僕よりは若干隠密性能が悪いらしい。それでも熟練者が感知を高めていないと気づかれないくらいなのだが。


 普通の人だと探知能力を上げることが出来るが、攻撃性0がなかなか難しいらしく、使うと魔法を放ったことが感知出来てしまうらしい。そこはやはり魔力を上げ、操作技術を磨くしかないとノエルの母親でもある、デリアさんがノエルが練習しているときに言っていたそうだ。


「いた?」

「えっと……いたね。ここから右手前に200mくらいかな」

「了解。いきましょ」


 ノエルを先頭に森の奥へ入っていく。奥と言っても自警団が隊を組んで討伐するような魔物なんて、数十km先にでも行かない限り出会う事なんてないけどね。


 それから慎重に森を進んでいくと、先頭を歩いていたノエルが止まる。


「いるわね。気づかれないように様子を見たいわ」

「そうだね」


 気配を探ることに関してはノエルの方が得意なので、僕はノエルについていく。


 どうやら移動しているらしく、ちょっと迂回するように移動する。後ろから確認するようだ。


 あまり音を立てないように進み、ノエルが木の陰から覗いて僕に見る様に合図をくれる。僕も覗いてみると、木の下に落ちている木の実を食べている大きなネズミがいた。


「フォレストラットね」


 見つけたのは大型のネズミであるカピバラに似ている。魔素感知でちゃんと魔石を保有していることから、野生動物ではなく魔物の部類になる。


「フィル、足止めよろしく」

「了解」


 アイテムボックスから短剣を取り出したノエルは、そのままフォレストラットへ突っ込む。気づいたフォレストラットは攻撃態勢に入るが、僕が魔法で土を操作し、足元を沈ませ固める。


 動けなくなったフォレストラットの首筋に短剣を刺し一撃で仕留める。


「バッチリね。ここで解体しちゃう?」

「そうだね。魔石の取り出しだけしとこうか。フォレストラットの肉は食べれるけど、そんなに美味しいわけじゃないし、アイテムボックスに保管して解体屋にでも卸そう」

「了解」


 ノエルはパパっと魔石を短剣で取り出し、水魔法で短剣の血糊と手を洗いアイテムボックスにしまう。魔石とフォレストラットの死体は僕のアイテムボックスの中へ。


「贅沢を言うならもう少し骨のある魔物と戦いたいわね」

「楽に倒せるのはわかるけど、油断はしちゃダメだよ」

「わかってるわよ……どうにかして早めに冒険者になる方法はないものかしらね」

「独り立ちできるくらい実力がついたとして、イシスさんは許してくれるの?」

「……ほんと親バカにも困ったものね」


 眉間にしわを寄せながら、次の獲物の方へと向かうノエル。デリアさんは許してくれそうだけど、イシスさんがねぇ。一人娘だから溺愛してるんだよね。


 僕とノエルは二度目の人生になるから、こちらでの実力をつける以外にノエルは貴族作法、僕はこちら固有の知識以外は習うことはない。僕もこの世界を色々見てみたいけど、そんなに今すぐというのはないが、ノエルはすぐにでも旅に出たそうだ。貴族作法の習い事が嫌いっていうのもあるかもしれないけどね。


 その後は数体のフォレストラットと、フォレストラビットというウサギ型の魔物を仕留め、西の森から村へ帰る。門番の人に挨拶した後、解体屋へ卸すため人に見つからないように麻袋を出し、その中へ魔石を抜いた魔物を出す。


 重いので身体強化しながら、解体屋へノエルと一緒に持って行き売却した。全部で約3000セントになったけど、フォレストラット数体よりもフォレストラビットの売却値の方が高かったのは、やはり肉の質になるのかな。


 フォレストラビットの方は鶏肉に近いそうで、それなりに美味しい。屋台でもよく売ってるからね。フォレストラットの方は駄菓子程度の値段で売っているので、軽いおやつ感覚で量を食べたい人向けだな。


「明日から小屋建築よね?」


 家に帰る道すがら明日の予定を聞いてくる。


「うん、魔法があれば建築向きの木材にすぐ出来るし、外見をどんな風にするか考えて明日から建築を開始かな」

「それじゃ当分は教会を休んでもいいわね」

「そうだね、アランやオリガと遊びたいときにでも行けばいいかな」

「わかったわ」


 僕の家に着いたので、ノエルと別れ、家の中に入り母さんとシンシアに帰宅を告げる。


「ただいま」

「「おかえり」」

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