第44話 魔道具の有用性

 寝室とは別の作業部屋が欲しいため作り出した、丸太小屋の建築は外装がいそう内装ないそうともに整えることが出来た。


 ノエルが作成した作業用の引き出しのある机と椅子。ちゃんと僕の高さに作ってあるので、使いやすいようになっている。こういうところはノエルはちゃんとしているよね。


 僕はノエルに頼まれて作成したロッキングチェアとそれに使うクッション。クッションはシンシアの分も作ったので、2つ出来上がった。シンシアも気に入ったようで、リビングルームに置いて、よく使っている。


 ノエルも僕が小屋にいるときは、ロッキングチェアでくつろいでいるみたいなので、気に入っているのだろう。


 そして現在、僕はその完成した丸太小屋で魔道具まどうぐを1つ完成させた。魔道具の中でも初歩しょほの初歩である、火種ひだねの魔道具だ。魔道具職人を目指す人は必ずといっていいほど、この火種の魔道具作成から始めるといわれるぐらい、メジャーでありふれた魔道具だが、前世ではありえない道具であるため、完成した今はちょっと感動している。


「なに?完成したの?」


 僕の作業の手が止まったのを見て、声をかけてきたのだろう。ノエルはロッキングチェアに座りながら、ユラユラと揺れている。その膝にはシンシアが乗り、一緒になって楽しんでいたようだ。


 ロッキングチェアの隣には、いつの間に用意されたのか、1本足の簡易な机と、その上に紅茶セット2人分。ノエルとシンシアの分だろう。


 その近くには僕が今座っているような椅子と、シンシアに作ってあげたクッションが台座に置かれている。先ほどまでそこに座っていたのだろう。


 僕は窓際の近くの机に直接日光が当たらない場所に、机を置いて中心部には背を向けていたので、気が付かなかったが、寛いでいたことがうかがえる。


「うん、簡単なやつね。火種の魔道具」

「お兄ちゃん、すごい!」


 出来た魔道具を2人に見せるため渡すと、シンシアは素直に喜び、ノエルは感心したような顔をする。


「へ~よくできてるわね」


 ノエルは実際に魔道具を使用してみて、ちゃんと火種が発動するのを確認する。


「ノエルが魔道具がどういうものか教えてくれたのもあるからね。実際火種の魔道具を分解してみたけど、これたぶん人によって作り方がそれぞれ違うか、作り方習った場所で違うかもしれない感じだよ」


 魔道具を作成するに辺り、大まかに魔道具は魔石、魔導回路まどうかいろ道具形状どうぐけいじょう分類ぶんるいできる。魔石は魔素を貯める性質を持っていて、魔道具を発動させるためのエネルギー源となっているが、魔石自体に魔素を吸収する性質は無いため、使い捨てだ。


 魔導回路は魔鉱石まこうせきまたは魔素金属まそきんぞくで、イメージした魔素を発動回路はつどうかいろとして組み込むことで、魔法が発動する。魔鉱石などに含まれる金属の魔素浸透構造まそしんとうこうぞうが、他の金属より優れている金属が、魔鉱石または精錬後は魔素金属と呼ばれる。


 道具形状は主に使いやすさや、魔法発動補助まほうはつどうほじょに不可欠だ。ライターの形が変わっても構造が同じなのは、使い場所の用途ようとで違うからであるし、魔道具も同じだ。


「それでも、もうだいたいはわかったんでしょ?他のも作れるの?」


 作った魔道具を一通り確認して返しながら、僕に聞くノエルに僕は腕を組み、考え込む。


「ん~出来なくはないと思うけど、作ってみた感想としては、作るより魔法を発動させる方が簡単ってことかな」

「イメージ定着なんだから、どっちも同じじゃない?」

「使うのが自分だけならね。結構感覚的にやってる部分もそのまま再現されちゃうから、例えば風を送る魔法でも、強弱はこのぐらいっていう感覚でしょ?でも魔道具で定着ていちゃくさせると定着させた威力しかでない。威力を変えるなら、威力の変えた魔法を2つ回路に組み込むことになるんだよね」


 簡単にいえば融通ゆうずうが利かないってことだな。道具を使うって認識だけで、魔法が出るのは強みだけど、一定規格のみになる。スイッチは魔法の切り替え操作になるかな。


「確かにそうね。でも有用ゆうようなのは変わらないんでしょ?」

「そうだね。使ったらエネルギー消費は魔石だし、発動したら設定しない限りは、魔石が切れるまで自動で魔法が発動し続けるから」


 発動したら止めるまでは自動で動くのは、魔道具の強みかな。この辺りは前世の機械に似ているね。


「ま、今は練習だし、本格的に自分の使いたい魔道具を作るなら、道具やお金も足りないから、今は趣味程度に留めておくよ」


 初めて作った魔道具を棚の上に置きながら、改めて考える。何だかんだいっても、実際に自分が使う場合の魔道具について、考えを巡らせることは楽しいことだ。





 それからある程度日が経ち、僕達は相変わらずのんびりした生活を続けている。基本的な過ごし方は、午前剣の稽古、午後魔法の訓練、夜は本を読んだり、趣味の時間という感じだ。


 趣味程度にしている魔道具作成だが、それをしているうえで新たに分かったことがある。それは僕の魔法特性を受け継がないということだ。僕の魔法は基本的に隠匿性いんとくせいが高い。まぁそういうイメージで魔法を使っているからなのだが、それでもノエルや母さんに魔法の隠匿をさせて見ても、僕ほどではないという。


 そして僕が魔道具を作ると隠匿性がつくかと思ったが、そうではないようだ。魔法を発動する際に、魔石からエネルギーとして魔導回路が魔法を発動させるが、その兆候が分かってしまう、つまり隠匿されていないのだ。


 これは僕やノエルが使っても同じだったので、間違いない。人間が魔石を持っていないのはわかっているので、魔石の魔素を貯める性質が、人間は耐性を得ることで備わることから、そこで何かしらの特性がそれぞれあるのかもしれない。


 まぁとりあえずそれがわかっただけでも有用なことだが、このことで僕が考えたのは、魔道具そのものに隠匿効果の魔法を発動させるとどうなるかというものだった。


 だがしかし、これは作るにも材料が足りなかった。精錬度が低い、簡単にいえば魔素浸透率まそしんとうりつの低い金属では、隠匿魔法を定着させることが出来なかった。なので魔素浸透率の高い金属では出来るのかと言われると、やってみないとわからないという答えになってしまう。


 そして単純な話、魔石から魔導回路へエネルギーを送る時点で、発動が気づかれるのだから、隠匿魔法が定着できたとしても、意味がないのではないかという気がしている。


 魔道具での順番が、使う人間が魔導回路に発動するように魔素を流し、魔導回路がその発動兆候はつどうちょうこうを受け、魔石からエネルギーを使いながら、魔導回路に定着された魔法が発動するのだ。


 最初以外は自動なのだから、隠匿魔法を魔導回路に定着させても、ダメじゃないかと思うのは必然ひつぜんだろう。


 このことから、僕達が魔道具を使うとしても、使ったことがバレても問題ない魔法しか魔道具に出来ないということだ。


 そう考えると、使い勝手がいいのかどうか疑問符を浮かべることになるが、1つそれでも作りたい魔道具はある。


 冒険者をやっていく上で、魔道具が必要な場面というのは、考えただけでも多いんじゃないかと思う。そんな中で優先的に欲しいと思ったのは、休憩時に使う魔道具だ。


 異世界もののお馴染みと言っていいのではないだろうか。そう結界魔法である。


 野宿しなければいけない場面でも、これがあれば安心できる魔法であることは、想像に難くない。


 実際これも現在ある素材で試してみたが、定着させることはできなかったので、冒険者になる前には完成させたい1つとして、目標にするつもりだ。


「いいんじゃない?」


 いつも通りロッキングチェアで寛ぎながら、紅茶を飲んでいるノエルに適当に返事されたけど、気にしないのだ。

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