第45話 カレリーナ・フォン・ヴェストレム
保存食の歴史は古く、紀元前から作られていた保存食も、
この魔法世界であるエーナでも、保存食の発明は行われるが、地球とは若干違う歴史を
そもそも魔法世界エーナには、地球にはない魔素が存在し、これは例外もあるが基本全ての生物において、蓄積すると有害なものである。しかしこれがあることにより、人間は魔法を使うことができる。
では魔法を使わない野生動物や植物はどうなるのか。
野生動物や植物も魔素を人間と同じように吸収し、魔素耐性を得るのだが、その魔素を魔法に使うのではなく、自分の成長に使うことがわかっている。
地球でよくトマトを育てる際に水を与えないと、より美味しく育つというのがあるが、それは植物が持つ
生命維持に必要である水を、トライコームと呼ばれる植物の表面にある細かな産毛から、空気中の水分を自力で吸収しようとする。
肥料が無ければ生命維持をするため、出来るだけ吸収した養分を貯めこもうとする。
こうして出来たトマトが、通常よりもとても甘く美味しいトマトが出来る仕組みだ。
そしてこれが魔法世界エーナでは、地球環境の他に魔素があるおかげで、生命維持機能を活性化させなければ、魔素にやられてしまう環境が常にどこにでもある。
常時魔素にさらされている状態で、その魔素を成長の糧に使うことが出来るとしたら、それは地球とは別格な美味しさの食べ物が出来るという仕組みが、出来上がってる。
このことから、エーナの生物は生命維持機能が地球の物よりも優れ、病気などにも強い。しかし、採取されてしまえば生命維持機能が止まるのだから、もちろん地球と同じく腐敗するため、保存食については考えられてきた。
保存については村単位で出来ること、つまり先ほどの
そこで研究の対象になったのが、この世界で最も有名な魔道具、『マジックバッグ』である。ダンジョンなどからレリックとして出土する『マジックバッグ』は、時間停止または軽減の付与がされているものが多く、運搬はもちろん保存にも適した魔道具であることは、誰でも思いつく。
しかし、レリック扱いであるということは、発見数が少ないということであり、ダンジョン産の『マジックバッグ』で
そして長い年月を
ダンジョン産『マジックバック』の
魔法が得意な人材が集まる中で、魔道具作成が得意というのは、また違った分野であることが分かるまでも時間がかかったし、魔道具作成が得意な人材というのは、その中でも割合は少ない方であった。
そして研究の末、この世界で最高傑作と呼ばれる『マジックバッグ』を作った人物が、魔道具作成を携わる人なら、知らない人はいないといわれるぐらい有名で、現在の魔道具の書物は、ほぼこの人の書いた研究資料が元になっている。
カレリーナ・フォン・ヴェストレム。彼女が
小さな領地を持つ、
在籍中に空間拡張された魔道具『マジックバッグ』の作成を成し遂げ、成人になる15歳に首席で卒業後、魔法学院からの
その後、王家の要望により王立魔道具研究所へ入所し、空間拡張の拡大した魔道具『マジックバッグ』を作成し続け、国王から功績が認められ、32歳にして初の女性所長に就任に合わせ、貴族として伯爵を賜る。
それから自身の研究の
彼女だけ作れるのではなく、他の人にも同じようにという王国の考え方も、彼女自身賛同していたため、所長に就任した後は、魔道具作成をする機会がかなり減ったものの、46歳で彼女の研究の集大成ともいえる魔道具の作成に成功。
空間拡張の広さはそのままに、時間経過の軽減付与が確認され、王家から勲章を授与とともに、女性初の
その後も王立魔道具研究所へ在籍しながら、研究を続け60歳を区切りに王立魔道具研究所を
これがカレリーナ・フォン・ヴェストレム侯爵である彼女の生い立ちについて、書かれた本を読んでわかったことだ。
この本などから見てもわかるように、『マジックバッグ』の魔道具は完成しているはずなのに、なぜまだレリック扱いで、市民に
その疑問も彼女が完成させた『マジックバッグ』の材料を知ればわかる。最高傑作と言われる『マジックバッグ』がとても高価なためだ。
もちろん材料を抑えようと後世の魔道具職人や王立魔道具研究所、そして彼女自身もさらに研究を重ねたが、空間拡張と時間経過の軽減の両立した『マジックバッグ』は難しく、結局のところダンジョンから出土した時間軽減の『マジックバッグ』と同じ機能なら、同額かデザイン料込みで、若干高くなるという結果に落ち着いた。
魔道具研究と『マジックバッグ』の歴史について書かれた本を閉じながら、
つい最近きた行商人から買ったこの本も、なかなか面白かった。アイテムボックスの魔法をあまり人前で使わないように、母さんから言われたのも納得できる。
まぁそれでも使える人がいないこともないらしいのだが、使えると国や貴族からの勧誘が
だけどこの本にも書いている通り、とても高価らしいからなぁ…デリアさんや母さん達は冒険者の時に買ったらしいから、高ランク冒険者は稼ぎもいいらしい。
高価な魔道具の作成も、冒険者で稼げるようになるまではお預けかなぁ。魔道具を作って売ってもいいけど、ぶっちゃけ西の森に近いこの村なら、獲物を狩って売った方が稼げる。
冒険者ギルドがないので、依頼料が発生しないため、冒険者ギルドに
大抵冒険者ギルドを通さないってことは、知られたくないとか色々後ろ暗いところがあったりするので、冒険者ギルドでも依頼主からの直接依頼は、
冒険者ギルドに仲介料が入らないからだと、
ノエルの父親であるこの領地の領主、イシスさんもこの村に冒険者ギルドを誘致したいらしいのだが、もう少し人口が増えないと無理っぽい話を聞いた。
メルクトス村が街になるまでは、まだ年月がかかりそうである。
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