第20話 魔道具職人
昼食後、再び収穫祭を見て回る。今見ているのは衣服を置いている店だ。この世界の衣服は大量生産があまりされていないので、基本的に割高だ。しかし、魔素があるおかげか食材の味がそのままでも美味しいように、衣類に使う素材も肌触りを抜きにしたら、丈夫で長持ちする性質があるようで、そんなに買い替えるものでもない。
だけど魔物がいるので、高級品となるとその素材の入手困難さから、高いものは天井知らずで高いのは、この世界ならではだろう。
それに人族以外の種族もいるため、その体系は種族でバラバラなので、大量生産に向かないのかもしれない。まぁ手に職を持つのが当たり前の世界なので、個人で服を作れたりするのも要因かもしれないが。
普段動きやすい服装ばかりのノエルがシンシアとアリシア母さんに着せ替え人形のようにされているのを横目でみながら、僕は隣の店にある魔道具を売っている店の商品を見ていた。
魔道具は前世の家電よりも高いイメージだ。なぜ高くて需要があるのか、それは魔道具は自分が魔法を使わなくてもいいのが利点だ。
魔法は自分の体内魔素を消費し、イメージで魔法が発動するとそれが現象化される。
1日に使える体内魔素は有限であるので、ずっと使い続けることはできず、イメージで魔法が発動するということは、それに思考が占領されるということだ。
よほど並列で物事ができる人でもない限り、簡単な魔法ならともかく、魔法を使いながら違うことをするのは、訓練しないと難しい。
左手と右手で違うことをするイメージといえばわかりやすいだろうか。
ライトなどの魔法でその場で浮かばせるだけなら、左手を時計回りに回しながら、右手でやりたいこと、例えば文章を書くみたいなことぐらいはできるのだが、ライトでも光の玉を色違いを5つ出しながら複雑に動かすとなると、左手の指で数を数えながら五芒星を空中に描き、それを定期的に逆にしながら、右手でやりたいことに意識を割くというのは、なかなか難しいと思う。
しかし魔道具があれば、魔法に意識を割く必要がなくなるので、高級品だが重宝される。高級品な理由は魔道具を作る素材が高価なのと、職人が少ないせいだ。
魔道具は魔物から取れる魔石をエネルギー源とし、魔導回路で発動する魔法を設定する。魔導回路は魔鉱石から精錬した魔素金属を魔力で発動する魔法を魔素金属にイメージ定着させたのが魔道具だ。
エネルギー源である魔石の魔素純度が高いほど、長持ちするのでエネルギー消費が多い複雑な魔導回路になると低純度の魔石だと、すぐエネルギー切れになるため、高純度の魔石が好まれるが、もちろん高純度ということはそれだけ内包するエネルギーが高いということで、魔素をエネルギーとしている魔物がそれだけ強いということだ。
次に魔導回路で使う魔鉱石だが、これも採掘するのが大変であることがあげられる。魔素は耐性の無い人間にとっては毒だ。だが魔素はどこにでもある物質なので、自然と魔素耐性は普通に暮らしても上がって行くが、魔鉱石は魔素が濃い場所でないと採掘できない。そのため魔素耐性を任意で上げている人でないと取りに行けさえしないのだ。
魔道具を作成する上で重要なのは魔導回路を作成できる職人だ。魔導回路を作れるということは、体外魔素を感じ取れるぐらいの力量があり、魔素金属の魔素に働きかけれるということは、魔力もそれ相応の強さがないといけない。
自身の魔素ではない魔素金属へイメージを定着させるというのは、金属の魔素に自分の魔素をイメージして魔法を発動するのではなく操作し、集約させる。そして金属魔素を自分のイメージした魔素に書き換えるのだ。
僕の今行っている魔素キューブに近い概念が必要になる。これは魔力よりも魔力質、つまり魔素操作技術の力よりも質が問われるので、ただ魔法が得意というわけにはいかないのだ。魔法が得意ではなくてもこの魔道具制作の方が得意という人がいるぐらいだ。そういう人が魔道具職人になるので、職人自体が少ない上にハードルが高い。
そしてその魔導回路制作できる職人が全て回路以外、つまり道具としての外側の部分である形やデザインなどをあしらったりできるわけがない。またそこに鍛冶職人や木工職人など魔法とは別の職人が加わるのだ。
材料採取、魔導回路制作、道具としての完成、それぞれに職人が関わるのだ、高くないわけがない。
ちなみに1番安い魔道具は火を起こす魔道具、つまりライターみたいなものだ。
1番低品質の魔石で、しかも魔導回路に使う魔鉱石を精錬する際に出た、不純物を取り除いた金属じゃないほう、つまり精錬時にでたゴミ鉱石から魔導回路が作れるため、思ったより安く買うことができる。
これは見習の魔道具職人が練習のためにまず作るのがこの魔道具であり、材料費が他の魔道具と違いあまりかからないためだ。
買う客層も火の魔法が苦手な人か、身体強化魔法だけが得意な人が買う。火はイメージとして定番なので、魔法で使える人が多いのだが、魔法操作が苦手で自分の魔法で火傷する人がある一定数いるのだ。そういう人に好まれるため、安い割に需要がなくなることがなく、材料費も安いため、安く出回っているそうだ。
魔道具そのものではなく魔道具制作に興味がある4歳児がめずらしいのか、先ほどから魔道具制作の質問をする僕にちゃんと答えてくれる店のおじいさん。
店員は他に若い人がやっているので、いいのだろうが邪魔になっていないのかいまさらながら不安になる。
「大丈夫じゃよ、それに魔道具制作に興味を持ってくれるのは嬉しいわい」
綺麗に切り揃えられた白髭を撫でながら、話をしてくれるこの人はその理由を聞いてみたら昔は魔道具職人で今は魔道具を売っている商店の店長らしい。
普段はアーテッシュ伯爵領に店を構えているそうで、露店を出しているのは店の宣伝と跡継ぎ修業のためらしい。若い店員が跡継ぎであるお孫さんらしいが、魔道具制作の才能はなかったが、経営の方は得意らしいので接客などをまかせているのだそうだ。
もともと魔道具制作の職人だったので、弟子が何人かいて、その人たちが今は店の魔道具を作っているらしい。だから魔道具に関して僕に教えるのもうまかったのかと納得する。
「他に聞きたいことはあるかの?」
「いえ、大丈夫です、ありがとうございました」
「なんのなんの、儂も話し相手がいて楽しかったわい」
そういいながら、僕の頭を撫でてホッホッホと笑うおじいさん。迷惑じゃなかったのならよかったよ。
そろそろノエル達の買い物も終わるだろう、あっちの様子を見に行こう。
「また時間があれば魔道具見に来ます」
「ああ、またおいで」
お辞儀をして店を後にする。まぁそういっても隣の店なんだけどね。
隣の店に戻ってきてまず見えたのは、ぐったりしたノエルが椅子に座っているのと、何着かの服を店員に渡して服を買うアリシア母さん。シンシアは服と一緒に売っている小物を見ていた。
とりあえずノエルを励ましに行くか。そう思いながら座っているノエルに声をかけるため近づくのだった。
「じいちゃん、なんか嬉しそうだね」
自分の跡取りである孫に声を掛けられ、去って行った子供を見送っていた視線を孫に移す。
「将来有望そうだからからのぉ」
「まぁ確かにあんな小さいのに礼儀正しい子供だったな」
「それだけじゃなかったがの」
「他に何かあった?」
やはり孫には感じなかったようだ。魔道具職人の才能がないということは魔素を感じる能力も低いということじゃから仕方ないが…
しかしあの年で既に魔素を自在に操っておった。話をちゃんと聞きながらも常に魔素操作を行っておって、四角い魔素のようなものを作っておった。
いやはや、魔法をまだ習う年齢でもないだろうに、末恐ろしい御子がいたものだ。
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