第8話 お泊り
母さんに何度か魔素を流してもらったものの、感じ取れはするがそのあとの進展はなく、それはノエルも同じようで、魔法についてはそれで終了した。
明日もやってくれるらしいので、焦らず行こうと思う。話を聞く限り自分で魔素を操作できなきゃ魔法は使えないみたいだからね。
ひと段落して、また母親達で話が盛り上がっている中、僕は母さんに抱かれたまま頭を撫でられたり、頬をムニムニされたりとちょっかいをかけられていた。ノエルはカエラさんが持ってきた飴みたいなお菓子に夢中である。
ホントよく食べるな。
その後夕飯になり、お昼のように食事を終えたあと、ノエルの部屋へ移動もとい運搬され、ひと息ついているところ。
外は暗くなり、ここに来るまでの廊下や部屋には台座みたいなのに光の玉がついていた。家にもあったがこれは魔道具というもので、前世のように電気ではなく魔素でついているらしい。
これは魔法とはまた違った技術らしいが、聞くのは魔法がちゃんと使えるようになってからにしておこう。何事も中途半端はよくない。
それよりも問題はこのあとだ。なんとノエルの家にはお風呂があるらしい。この世界に来て初のお風呂だけど、ぶっちゃけまだ赤ちゃんだから桶で十分なわけで、家ではそうしていたのだが、準備ができたらこのあと一緒に入るらしい。
母さんならまだしも、ノエルとデリアさんが一緒なのはちょっと……
知識があるだけで赤ちゃんなので性欲などはあるわけないのだが、ノエルは僕が前世の知識があるのは知っているわけで。
こういうのを積み重ねていくと、ノエルに弱みを握られた状態が続くわけで、大人になってからノエルに頭が上がらなくなってしまう。その方が非常に問題なのだ。
どうこの危機を乗り越えようか考えている僕の隣で、ノエルはお腹いっぱいになったお腹をさすりながら、横になっている。
絶対何も考えてなさそう……
そんな状態がしばらく続き、ノックの音とともにカエラさんと母さんが迎えにきて、僕を抱き上げた母さんと、ノエルを連れたカエラさんを伴って、お風呂へ移動するのだった。
お風呂は4~5人余裕で入れそうな大理石のようなツルツルの石でできた湯舟と、お湯の出る洗い場が2か所と結構広くできていた。
カエラさんが手伝いながらノエルはパパっと脱ぐとお風呂に駆け出していく。
「ノエル、お風呂に入る前に体を洗いなさい」
「は~い」
デリアさんの忠告を受けて、洗い場へ。カエラさんは靴下を脱いで、袖を捲りメイド服のまま入りノエルを洗うのを手伝うみたいだ。ノエルの尻尾がユラユラ揺れているのが印象的であった。
「はい、フィルも脱ぎましょうね」
母さんがいつものように僕の服を脱がしていく。もうここからはできるだけ目をつむって母さんに任せよう。
「どうしたのフィル、目をつむって。いつもおとなしいけど、今日は殊更ね」
「魔法の練習で疲れたんじゃないかしら」
「そうなのかしらね。フィルってお風呂好きだと思ったんだけど」
そりゃ好きだけど状況がそれを許してくれないのですよ……
「それだけおとなしいならカエラにフィルくんをまかせて、アリシアもゆっくりしましょう」
「そうね、お願いしようかしら」
……え!おとなしくしてたのが逆に裏目に出た!
「カエラ、ノエルの方が終わったらフィルくんも洗ってちょうだい」
「わかりました奥様。ノエルお嬢様、目を閉じてください。お湯をかけて洗い流しますね」
あぁ……決定事項になってしまった……もう無心になろう。流れに身を任せるしかない。
「フィルくんは預かるわ。アリシアも脱いじゃいなさい」
「お願い」
母さんからデリアさんに渡される僕。あぁ目を閉じててもわかる、素肌の気配。
「女の子も可愛いけど、男の子もいいわね。次は男の子が欲しいわ」
「あらあら、まだノエルちゃんも生まれたばかりでしょうに」
和やかに話している母親達の会話を聞く余裕もなく、無心になるために素数を数える僕。2.3.5.7.11……
「奥様、ノエルお嬢様は洗い終わりました。フィルくんを預かります」
「お願いね」
「カエラさん、お願いします」
そして洗い場に連れていかれると、洗い終わったはずで、湯舟に行っているはずのノエルの声が近くで聞こえる。
「フィル、洗ってあげる」
ノエルーーーーーーー!!……目を閉じて見えないが、ノエルが満面の笑みを浮かべてる気がした。
お風呂は命の洗濯、安らぎの時間のはずなのに、僕は結局カエラさんと一緒にノエルにも洗われ、心身ともにぐったりとしてノエルのベッドで横になっている。
もう少し成長していれば1人でもできるのに、この体が恨めしい。
ノエルは鏡の前でカエラさんに髪を整えてもらっている。金髪の髪を櫛で梳かしながら、風魔法で髪を乾かしているみたいだ。
まだ不自由なこの状態こそ魔法を使いたいのに、なんともままならないものだ。
特にこのあとは何かすることはない。あとは寝るだけ。灯の魔道具があるので、夜も活動できるのだが、特にすることもないからね。
寝る準備も整えてノエルと一緒のベッドに横になると、カエラさんが布団を掛けてくれる。
「お嬢様、フィルくん、おやすみなさい」
「「おやすみ」」
声をそろえて返事をする僕たちを見て微笑んだカエラさんは、部屋の明かりを消してそのまま静かに部屋を出て行った。
いつもとは違うベッドなので、慣れなくて眠れないかとも思ったけど、ノエルの使っているベッドが高級品なのか、寝心地がいい。このまま目を閉じるとすぐ眠れそうだ。
隣にいるノエルの温もりとベッドの寝心地の良さ、それに赤ちゃんの体の影響もあり、早くもウトウトしていると、隣でガサゴソ動き僕の頬をムニムニするノエル。
「何寝ようとしてるのよ」
「えぇ~もうやることないじゃん。寝るんじゃないの?」
「何言ってるのよ。こっちの知識を教えてあげるっていったじゃない」
あぁそういえばそんなことも言ってたね。尋問……じゃなかった情報共有するつもりだったみたいだけど、もう魔法のことはだいたい聞いたしなぁ。
「他になにかあったっけ?」
「はぁ~ほんとフィルはダメダメね。やっぱり私がサポートについてきて正解だったわ」
なんで僕が悪いみたいになってるんだろう……
「まずはそうね、この転生した世界のことから。この世界はエーナ、この国トラフィルリア王国がある大陸はトラバルニア大陸ね。トラフィルリア王国は環境的に穏やかだから、ここに転生したみたい。この村アウルム領メルクトスの男爵が私のパパね」
「エーナにトラバルニア大陸か。トラフィルリア王国なのは知ってるけど、この村がメルクトスって名前なのか」
「ええ、そんな大きな村でもないけどね。小高い丘の上にあるこの家の西にある川から東に村が広がっているわ。東と北の道を馬車で進んで1日半くらい進むと違う村があるわね」
1日半くらいだと結構離れてる気もするけど、1日60km走るとして100kmくらい離れてると考えると普通なのかな?馬車だからスピードがそんなにでるわけじゃないからね。
「地理はこのくらいにして、今日ママに教えてもらった魔法についてね」
「あれで全部じゃないの?」
「魔法に関してはあれでいいわ。そうね補足的な感じよ。魔素を操作する力、それが魔力で、魔素を使い魔法を行使する、ここまではいいわね?」
僕は午後に聞いた魔法についてのことを思い出しながら頷く。
「魔素から魔法を使うために、魔素に干渉しうる精神力と魔力が必要で、この干渉力が働く範囲が魔力領域というわ」
「うん、そうだね」
「魔法は基本元素魔法として地>風>水>火>地といった具合に相克関係があるわ」
「そこは物理法則と似ているね」
「あとは分類が違うと言った方がいいかな。精霊魔法というものもあって、精霊と契約してその力を借りることで魔法を行使する方法よ」
「精霊ってこの世界にいるんだ?」
「いるわよ。精霊は自然エネルギーの集合体でそれが自我を持つと精霊になるの。力の強さに比例して意思がはっきりとしているのが特徴ね」
精霊かぁ、どんな姿しているんだろ。会ってみたいなぁ。
「その他にも色々あるけど、まぁ最初からあまり知っていても面白くないし、今は魔法を使えるようになるのが1番よね」
サポートでついてきたはずなのに、僕以上に楽しもうとしてる感がひしひしと感じるのは気のせいかな。
「そうだね。必要になったら教えてもらうことにするよ。それじゃそろそろ寝よう」
「何言ってるの。魔素を感じる訓練をやるわよ」
「え、いまから?」
「当り前じゃない、魔素操作は早くできるようになる方が、魔力量も増えるしいいことなんだから」
それはわかってるけど、ノエル僕はもう目蓋を開けていられないよ……
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