第39話 未来予想図
5歳になり、教会に通うようになってから、周りを見て色々考えることがある。同時期に教会に通うようになった、アランとオリガの影響もあるだろうが、この世界では仕事に就く選択肢はかなり少ない。親が店をやっていればそれを継ぐし、職人ならその職人になることが多い。
たとえ自分の家族の店を継げなくても、職人ならば違う町に弟子入りするし、トラフィルリア王国では教育に力を入れているため、15歳になればある程度読み書きができる人が多いため、余程でない限り職に困ることは無い。
魔物がいる世界なので、学が乏しくても戦闘力があれば冒険者にもなれるし、戦闘力が無くても機械が無い世界だ、国主体の工事などを請け負っているところは、人手をいつでも募集している。
さて、この世界で僕が今懸念しているのが、家族と同じ職に就くというところだ。僕の父さんは自警団の団長をしている。前世で言うところの警察もしくは私設警備会社と言ったところか。アウルム領の自警団なので、雇い主はもちろんここの領を運営している、ノエルの父親でもあるイシス=アウルム男爵だ。
このまま父さんと同じ職に就いたとしても、かなり年数が経った後になるし、雇い主はノエルではなく、弟のルイスくんが領主になる。
ノエルの弟というだけあって、僕から見ても可愛い弟に雇われるというのは、別に誰も気にしないだろうが、何かこうもうちょっとカッコイイ姿を見せたいというか……要するに見栄を張りたいところがある。
それにせっかく魔法のあるこの世界へ転生したのだ。世界を見て回りたいというのも1つの夢ではないだろうか。
それに魔法の訓練も剣の稽古も、世界を見て回る上では戦闘力は欠かせない要素のため、小さい頃から特に魔法訓練は毎日続けている。
そうだからこそ……
「で、結局何が言いたいわけ?」
僕が未来の話を熱く語っている隣で、クッキーをポリポリ食べながら話を聞いていたノエルが、ジト目をしながら質問をしてくる。
僕が話していてノエルがくつろいでいるのは、僕の家のリビングルームで、アリシア母さんが微笑ましく僕とノエルを見ながら、焼いてくれたクッキーを出し、紅茶を淹れてくれる。
妹のシンシアは紅茶を飲みながら、僕の話を聞いてくれている。話の内容が分かっているのかどうかは別にして、ノエルのようなジト目はしてない。
僕は口を潤すため、母さんの淹れてくれた紅茶で一息つきながら、ノエルから若干目をそらしつつ、先ほど言っていた内容をかみ砕く。
「つまりは自警団に所属する道ではなく、もっと違うことを模索しようとね」
「なら冒険者でいいじゃない」
「別に冒険者が嫌って言っているわけじゃないけど」
「どうせ冒険者になるって言うと、エドウィンさんから剣の稽古量が増えるのが嫌なだけでしょ?魔法で戦闘すればいいじゃないとか思ってるんでしょ」
うぐっ!さ、さすがノエル。痛いとこをついてくるじゃないか……
「お兄ちゃん、魔法好きだもんね!」
おお!我が妹は分かっているじゃないか。そう魔法の方が好きというだけでね。
「剣振ってるときと、魔法使っているときのお顔が全然違うもん!」
シンシアさん、笑顔で暗に攻撃するのはやめようね?お兄ちゃん泣いちゃうよ。
「あらあら」
母さんは困ったわねぇという顔をしながら、シンシアの頭を撫でているが、否定はしないんだね……
「色々話したけど、結局冒険者になるで終わりでしょ」
ノエルが話をまとめだしたが、冒険者になる宣言はノエルにとっては嬉しいのだ。なぜなら剣の稽古が増えるから。ノエルは僕と逆で、魔法の訓練より剣の稽古の方が好きだからな。
しかしそれでは僕が困るのだ。将来なるかもしれないにしても、剣の稽古が増えることは絶対に阻止したい。
「全然違うよ。僕の考えでは色々作業が出来る1人部屋が欲しいと思ってるんだ」
現在僕の部屋は、シンシアと同じ部屋で過ごしている。寝室も兼ねているので、そこで作業するのは衛生的にも良くないし、作業道具なども置けないので、別の作業部屋が欲しいのだ。
「嫌っ!お兄ちゃんの部屋と一緒がいい!」
僕の話を聞いた途端、被せる様に否定の言葉が飛び出した。言い出したのは同じ部屋のシンシアだ。今にも泣きそうな顔で僕に訴えかけてくる。しまった、ちょっと言葉足らずだったな。
「ごめんシンシア、違うんだ。今の部屋はそのままで、作業するだけ用に部屋が欲しいだけなんだ」
シンシアの誤解を解くため、必死に弁明すると、理解できたのか笑顔に戻る。
「よかった~。それじゃ部屋が出来てもシンシアと一緒に寝てくれるんだよね?」
「うん、そうだよ。今までのままね」
「そっか、それならいいよ」
安心したのか、部屋を新たに作るについて否定は無くなり、クッキーを食べ始める。シンシアの機嫌を損ねると長いからなぁ……
以前初めて自警団の訓練に参加したとき、肉体的にも精神的にも疲れてたので、お風呂を1人ゆっくり入浴したくて、自分ですぐ沸かし入ろうとしたら、いつもの様にシンシアも一緒に入ろうとしたので、断ってそのまま入浴したのだ。
そしたら母さんに泣きついたらしく、怒られはしなかったが、ずっとシンシアが不機嫌なままだった。いつも笑顔のシンシアの笑顔が無くなり、ずっと母さんに引っ付いたままで、魔法の訓練や普段する食事さえも自分で何もしなくなる。
一緒のベッドで眠らなくなり、翌日には治るだろうと思ったのだが、これが3日目になると話は変わってくる。何とかして機嫌を取ろうと、どこに行くにも1日中手を繋いで、座るときも僕の膝の上、絵本を読んであげ、食事も「あ~ん」してあげて、一緒にお風呂に入って母さんと一緒に髪や体を洗ってあげて、一緒のベッドで寝て、やっと翌日には笑顔になった。
あの時は本当に大変だった……
「でも空き部屋なんて家にはないわよ?」
母さんがシンシアの頭を撫でながら、僕に部屋の心配をしてくる。
「その辺を話そうと思ってたんだけど、お風呂みたいに増築するか、もしくは空き地に小屋を建てようと思って。出来れば小屋の方がいいかな。魔法を使っても時間はかかるだろうし。どちらにするにも、母さんと父さんの了解をもらってからになるから」
「そうね、私はいいけど、エドが帰ってから聞きましょ」
よし、母さんからOKがもらえたなら、大丈夫だろう。父さんは悪いことをしない限りは、ほとんど怒らない人だからね。
「フィル、小屋を自分で作るのはいいけど、材料はどうするの?」
ノエルの懸念も最もだ。だがこれもここの村ならではのがあるからね。
「西の森から取ってくるつもりだよ。表層ならそんなに危険は無いし、普通なら運んでくるのが大変だけど、僕にはアイテムゲートがあるからね」
「あぁあの無駄に豪華な魔法ね」
「……」
以前はキラキラとした1枚の鏡のような板が出現していた魔法『アイテムゲート』だが、それから派手なのはあまり良くないと思い、色々改良はしたんだけど……
「シンシアはあの魔法好きだよ?」
「ありがとう」
逆に僕の魔法を褒めてくれるシンシアだが、シンシアはオシャレさんなので、そう思うのだ。
現在のアイテムゲートは容量の拡張に伴い、入り口も広くなった。1枚板だったのがドアになり、そして両開きになった。
魔法の隠密性を重視しているアイテムゲートと対を成す『バックドア』こちらはあまり変わらず隠密性だけが増しているが、それに反してアイテムゲートは魔法発動時に感知される発動兆候や、使用された魔素量、魔力量などは隠せているが、ゲート自体は何故か派手になった。
キラキラのエフェクトがゲートの大きさに形作られると、白い柱に白い扉、彫刻はないのに、白色とキラキラのエフェクトが派手さを際立たせている。何故こうなった…
ますます人のいるところで使いにくくなったが、まぁバックドアがあるので何とかなっている状況だ。僕以外には受けがいいんだよなぁ……
とりあえず当分の間は、小屋を建てるための材料集めと、建てる土地の整備に費やしますか。
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