第29話 娯楽

 この世界には娯楽が少ない。特に体を動かす運動系に関しては特に顕著だ。それは何故か。まず娯楽に1番重要なのは勝敗、または成功失敗があることだと思う。


 しかしこの世界には魔法があるため、身体強化を行えるかどうかで勝敗がはっきりと別れてしまう。もちろんみんなが平等に使える、または使えない、もしくは使用または不使用を決め、順守すれば並行性は保てるだろうが、それが勝敗の格差が高くなればなるほど、順守することが出来るかと言えば、そうはならないだろう。誰でも勝ちたいと思うものだ。


 なのでファンタジーの娯楽でよく見られるのが知識系、即ちリバーシ、将棋、チェスなどのボードゲームやトランプなどのカードゲームが代表的な娯楽商品になる。


 だが、それらも作らなければ無いわけで、現在僕はノエルやシンシアと遊ぶための娯楽を考えている。


 それは何故かと言われれば、僕の体がもたないからだ。変な意味では決してない。文字通り疲れ果ててしまうのだ。仰々しい前置きをしたのも、僕の深刻さを表していると思ってくれていい。


 娯楽の少ないこの世界で、ノエルの遊びといえば僕と一緒に遊ぶことだ。それは魔法を使ったりもあるのだが、ただの魔法ならいい、しかしノエルは身体強化魔法が得意で、しかも運動が好きときている。魔法=身体強化と馬鹿みたいな公式がノエルの中で出来ているのか、身体強化を使った魔法を僕にさせたがる。


 これが顕著になった背景は、剣の稽古が始まり、僕の体力が思いのほか無かったことが原因なのだが、ノエルは何を思ったのか、僕に体力をつけることをに興味をもってしまった。本当にいい迷惑だ。


 もちろん断ったが、それを断られた。意味が分からない。そして始まった過酷な修行という名の遊び。


 まず始めにやらされたのは、木の枝に紐で括り付けた木の棒を剣で斬り返す修行だ。もうこれだけでわかるだろう、僕にはノエルが悪乗りしているようにしか思えないが、ここは本当に剣がある世界、剣の稽古にもなると嬉々として始めた。最初はノエルがやった後に僕にやらせるので、なら自分でやってみろなどの返しもできない。


 とりあえずやってみるが、そもそも前世から戦闘はあまり好きじゃないのだから、そんな上手くいくわけがない。ノエルはこれが面白いので僕に勧めている感覚なのだから、悪気がないのであまり文句もいえない。


 この時は1日これに付き合わされ、ヘトヘトになって就寝。午前は剣の稽古の時間なので、普通に素振りや、走ることをしているのだが、午後の教会の無い日はノエルの遊びが始まる。


 次にノエルが考えたのが、木の棒を上手く打てないのは体感が弱いせいだという理論で、丸太を縦に不規則な感覚で並べ、その丸太の上を片足でジャンプしながら渡るという、もうどこかの映画の修行シーンみたいなことをやらされた。


 もちろんノエルにはアスレチック感覚なので、悪気はない。そう一貫して全部僕のためなのだから、怒ることもできない。もちろんこの日もヘトヘトになって就寝。


 これではダメだ、せめて運動以外の遊びにして欲しい。そう考えて思いついたのが、僕以外も一緒に遊べる娯楽を提供することだった。


 僕を慕ってくれている妹には悪いが、お兄ちゃんを助けると思って協力して欲しい。






 まずノエルの遊びから逃れるには、運動系ではなく、知識系のものであること。簡単に作れるもので、なおかつ材料がそろいやすいものだろう。


 そこでこの条件に合う遊びで考えたのが、ドメモというボードゲームだ。


 ルールは至ってシンプルで、自分の手札に書いてある数字が自分にだけ見えない配置し、その数字を他の人の手札や言動・表情などから読み取っていき、自分の手札の数字をすべて言い当てたら勝ちというルールだ。


 まず同じ形の木片に数字を書いていく。1なら1枚、2なら2枚と作っていき、7まで作り、木片の合計が28枚になる。


 これで遊ぶ道具かが完成なのだから、1日で作れた。よしよし、これをノエルとシンシアに提案し、ノエルの遊びを回避しよう。






 次の日、午前中の稽古が終わり、今日は教会が無い日なので、ついでとばかりに僕の家で昼食を食べるノエル。食事をしながら今日の修行メニューをぶつぶつ言いながら考えている内容を聞く限り、ろくなことにならないと判断した僕は、昼食後早速とばかりに昨日作ったものを取り出した。


「お兄ちゃん、それなあに?」

「シンシアと遊びたくて、昨日作ったんだ」


 シンシアの言葉にノエルも気づいて、早速外に出ようとしていた足を止める。


「どうやって遊ぶの?」


 シンシアは僕の出した木片を、興味深く手に取って見ながら、遊び方を聞いてくる。よしよし、作戦成功だ。ノエルもシンシアには無理に言わないからな、このまま流れでルール説明しながら、ゲームさせよう。


「やりながらルールを教えるよ。ノエルも座って、4人でも出来るから、母さんも片付けが終わったら一緒にやろう」

「ええ、ちょっと待ってね」


 ノエルは無言でちょっと不貞腐れながら椅子に再度座り、母さんは後片付けのため、キッチンで食器を洗う。


「こんなのいつの間に作ったのよ」


 ノエルが木片を興味なさげに弄びながら、僕に聞いてくる。


「昨日だよ、最近シンシアと遊んでなかったからね。簡単に作れるものを用意したんだ」


 決してノエルの遊びが過酷過ぎたからとは言わない。これが処世術というものだ。


「お兄ちゃん、ありがとう!」


 シンシアの笑顔がだましているようで心に突き刺さるが、ここは我慢だ。母さんが昼食の後片付けが終わり、みんなでテーブルに着く。


「やりながら説明するね、まずこの木片の数字の書かれている方を裏返して、見えないようにしながら、かき混ぜる」


 みんなで裏返して、28枚の木片をかき混ぜる。


「4人でやる場合は、木片を1人5枚取って、自分には数字が見えないように木片を立てて、そうしたら相手の数字だけが見えるようになるから、うん、それでいいよ」

「こうね」

「みんなの数字は見えていいんだね」

「そして残った8枚のうち4枚を数字の見える表に、残りは裏にして中央に置いておく。これで準備は完了だよ、まず最初のプレイヤーから決めるんだけど、まず始めだから僕からね」


 母さんが3、5、6、5、5

 ノエルが7、1、4、6、6

 シンシア6、5、4、2、4

 場に出た7、3、2、3


 僕からはこの数字がわかっている。これでわかる情報は7が5枚と圧倒的に出ていないのと、1,2,3、は確定しているので、僕は持っていないこと。4が2枚、5が1枚、6が2枚足りないことだ。


「このゲームは、自分の持っている数字が全部わかったら勝ちだから、他の人の数字を見て、自分の持ってそうな数字を宣言します」


 なので、1番自分が持っていそうな数字7を宣言する。


「7を僕が持っていた場合は、右隣の人、つまりシンシアだね。シンシアが僕の7の数字を1枚僕に見せるように倒す。持っていなかったら、無いって教えて。数字を複数持っていた場合は1枚だけ倒すの。枚数は言わなくていいからね」


 そしてシンシアが僕の7と数字が書かれた木片を1枚倒す。


「それじゃ次シンシアの番だよ」

「わかった。えっとね……私も7!」


 7を宣言したシンシアだが、持っていないので、無いことを教えてあげる。


「え~ないの?」


 頬を膨らませながらも楽しそうだ。次はシンシアから見て右隣のアリシア母さんの番。


「そうねぇ、5にしようかしら」


 5番を宣言されて、ちょっとドキッとする。僕から見ると母さんも7が2枚しかみえないのだから、数の多い7から宣言するかと思ったが、母さんが持っている枚数が多い5を宣言したのだ。


 右隣のノエルが母さんの5の書かれた木片を1枚倒す。当たったので嬉しそうだ。


「次は私ね。ん~」


 ノエルの場合は唯一1を持っているので、1が見えない。しかし場に4枚隠された木片があるので、そこに入っているかもしれない。2と3は上限まで見えているから持っていないのがわかる。1番枚数の多い7は僕からだとノエルを含めないで1枚しか見えないので、僕が7を大量に持っていない限りは7を選ぶだろう。


「6ね!」


 あれぇ?本当に僕が7を大量に持っているのか?とりあえず6を持っているので、1枚右隣の僕が倒してあげる。


「これで1周したね、だいたいわかったかな?」

「うん、わかった!」

「ええ」

「そうね」


 3人の返事が聞けたので、進めて行こう。ノエルが7ではなく6を宣言したし、母さんも5を宣言したので、もしかしたら7を僕が大量にもっているのかもしれない。それならシンシアも7じゃなく違う数字を言いそうだが、まだ2歳だからね。


「それじゃ、僕の番だから数字の7で」

「お兄ちゃん、7ないよ」

「あれ?」


 あれぇ?本当にどうなってるんだ?みんな初心者のはず、いやだから読みあいが上手くいかないのか?


 とりあえず次はシンシアだ。シンシアは4を宣言し1枚倒す。母さんはまた5を宣言し2枚目を倒す。ノエルは今度こそ7を宣言し1枚倒した。これで僕とシンシアが1枚づつ、母さんとノエルが2枚で3周目にはいる。


 2周目の宣言で7が無いことが確定したので、隠れている4枚全部が7であることが確定したので、もう間違えることはない。あとは順調に消化していく、隠れている4枚が全部7というのも珍しいが、1番最初に自分の数字を全ていい当てた母さんが怖かった。結局7を1回も宣言せずに終了したのだ。確実に僕かシンシアの顔色を読んで7を宣言しなかったとしか考えられない。


 アリシア母さんに逆らうのはやめようと改めて思った瞬間だった。


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