第28話 稽古と新魔法
5歳になり教会にも通い出した僕は、父さんとの約束通り剣の稽古も始まった。
「うぅ……はっ!」
中庭で木剣を素振りする。木剣を頭の上に持っていくのもやっとだ。振り下ろすたびに木剣の重さでふらつく。
初回は父さんに指導を受けながらやっていた稽古も、毎日見れるわけではないので、最初にこれこれはやるようにと指導を受けたあと、自主的にやっているわけだが……
普段魔法の練習や読書が日課の僕には、基礎体力がまるでなかった。もともと争い事が好きではない性格もあり、ファンタジー感のある剣には興味がでなかった。運動よりも魔法の方が楽しいため、今まで運動らしいことをしてこなかったのが原因だ。
身体強化魔法を使ってもいいのだが、父さんに稽古中は身体強化ではなく、回復魔法を使いながら稽古をするように指導されたのだ。
身体強化魔法はイメージ的には不足エネルギーを補う役割のため、筋力や体力をつける目的の稽古では不向きなのだ。回復魔法であれば疲労やケガを回復させる効果なので、筋力や体力を鍛える目的の稽古ではむしろ推奨される魔法になる。
しかし誰しもが回復魔法を使えるわけではないので、回復魔法を使える僕は恵まれているといえる。父さんのいる自警団でも回復魔法を使いながら稽古しているとかはないらしいし、疲れて帰ってきた父さんに母さんが、回復魔法をかけてあげているのをよく見かけるくらいだからな。
身体強化を使いながらの稽古は、むしろ対魔物や対人戦などの技術を学ぶのに適しているといえる。反応速度や戦闘勘などは、早く動ける身体強化をしながらの方が実践向けだからね。
「やあっ!はあっ!」
そんな僕の横では空気を切り裂く音を出しながら、ふらつくこともなく、木剣を振るうノエルの姿が。
振り抜くたびに金色の髪がキラキラと光り、1枚の絵画のように様になっている。見学しているいつもは僕にべったりなシンシアも、情けない僕を見るよりもノエルの方がいいのだろう、ノエルをずっと見ている。ちょっと悲しい。
身体強化が体力や筋力の稽古に不向きというのは、効率で考えればなだけであり、使って動くことは運動には変わりない。
動くことが好きなノエルの場合、僕と違って魔法の訓練も身体強化メインで行っていたこともあり、それが小さい頃からとなれば、蓄積された差は歴然だ。
案の定、1番最初父さんと一緒に指導してもらったときに、太鼓判を押されたのはノエルであり、稽古メニューも僕よりも数段先を行っている。初回で父さんと早くも打ち合い稽古しているのだから。忘れているかもしれないが、父さんはメルクトス村自警団の実質トップだ。もちろん実力的にも上位であり、冒険者のときはタンクの役割を担っていたため、攻撃力よりも逸らし、打ち合いなど技術面の才能が高い。
その父さんにすぐに太鼓判をもらえるくらいなのだから、実力の差が開いているのも当然なのだ。
なので父さんがいない稽古の時は、僕に教えるのはノエルということになる。いつも頭が上がらないのにここでもそうなのだから、なんともままならない。
「くぅ……はぁ」
腕が疲れてきて、木剣がだんだん重く感じで来る。自分で回復魔法をかけ、体の疲労を癒してから、また再度木剣を振る。魔法でもそうだが、上達に近道はない。反復練習こそが1番の近道だ。しかも転生特典で潜在能力が強化され、回復魔法さえ使えるのだ。環境的には最高だろう。
……そう自分に言い聞かせながらやらないと、心が折れそうだ。魔法の反復練習ならずっとやってられるのに、こと剣に関しては、なかなか心にくるものがある。
「ほら、フィル。型が崩れてるわ」
「こう?」
時々こうやってノエルに指導されながら、午前中は剣の稽古をするのが最近の日課だ。
「お兄ちゃん、頑張って!」
シンシアの純粋な応援が、慰めに聞こえるのは僕の心が弱っているせいだろう。
シンシアは見学しているが、さっきまでは魔法の練習をしていた。最近になって魔素を感じ取れるようになり、魔法に関しては母さんがいるので、早いが魔法の練習をしているのだ。
先ほどまで母さんもいたが、昼食の準備のため家の中にいる。なのでシンシアは今は休憩中なのだ。
それから約10分ほど僕は素振りをして、ノエルは父さんに教えてもらった型をなぞりながらの稽古をしていると、母さんから終了の合図。昼食が出来るから、先に汗を流してきなさいとの御達し。
「ノエル先どうぞ」
「ありがと」
レディファーストでノエルに先に汗を流してもらう。僕の家には生まれたころお風呂はなかったけど、いつも我儘を言わない僕が、1番最初にねだったのがお風呂だったこともあり、父さんが増築してくれた。
まぁ母さんは僕には甘々なので、普通にお願いしたら増築してくれただろうが、母さんもシンシアもお風呂は好きそうなので、増築してよかったと思う。
ノエルを先に促し、僕は稽古でかいた汗を魔法で飛ばす。この辺りの魔法はもうお手の物だ。
「お兄ちゃん、いつものあれやって~」
「いいよ。動かないでね」
僕の魔法を見たシンシアが頼んでくる。僕は使う魔法をイメージしながら、詠唱する。この魔法は結構難しいのだ。
「クリーン」
シンシアに魔法を唱えると、シューっと音がして、完了する。これを使ってあげたとき、シンシアは殊の外気に入ったらしく、よくこうやっておねだりするようになった。
浄化魔法「クリーン」これは本当につい最近できた魔法で、なかなか難易度が高かった。
これもファンタジーではよくある魔法で、とても便利な魔法なのだが、最初魔法を使おうと思っても思うように出来なかった。イメージとしては汚れの消去なのだが、これは発動しなかった。次は消去ではなく、取り除く方法を試したが、今度は一部成功。魔法は発動したが、自分が汚れと認識しているものが、ちょっとでも違うとまたイメージのやり直しになった。
このことから、魔法を使う際に消去、つまり消す作業はかなり高難易度になることがわかった。そして汚れなど物を指定してイメージすると、それしか対応できない。
ならどうすればいいかと色々考えて完成したイメージが、いらないもの、つまり健康を保つ上で必要ないものを取り除くイメージを複数用意し「クリーン」という詠唱に定着させたのだ。
簡単にいえば1つの魔法をバージョンアップさせていった感じになる。しかしこれの欠点はバージョンを上げれば上げるほど魔素消費量が増え、魔力が段階的に必要になることだ。
そのためこの僕の使っている浄化魔法「クリーン」は見た目地味だが、難易度が高い魔法となってしまった。
しかしこの魔法の副産物というか、効果的な部分がある。それは老廃物や微生物の除去だ。最初は汚れだけだったが、地球の知識である老廃物や微生物の除去まで効果が及ぶと、一気に難易度が上がった。でもこれは使い道がかなり増えたことになる。
老廃物は地球でもエステや専門的なお店でないと、効果的な除去が望めないものが、魔法で可能になったし、体に有害な微生物が除去できるなら、虫歯はもちろん腸内の改善も望め、そして食べ物に付着した寄生虫なども除去可能になった。
これでこの間の母さんから教わった、お酒造りから得た魔法を合わせれば……
「……お兄ちゃんの顔、ノエルちゃんがお兄ちゃんで遊ぼうとしてる時の顔になってるよ?」
妹よ、ノエルその顔がわかるなら、お兄ちゃんが遊ばれる前に、ノエルを止めることが出来るんじゃないかな?
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