第34話 きらめく刻
♡永吉は四年の板前修行を終えて日吉旅館に帰ってきたの若旦那としてね。
精力的に旅館の売り込みや新しいサービスを展開していったわ。
その頃手日本中で漕ぎボートのレースが人気になっていてね。
永吉は日吉旅館の隣に小さめの別館を建てたんだ。
この辺は高級な旅館ばかりだから、ボート練習の学生たちは
浜辺にテント張って寝泊まりしていたのよ。
それに最近、町外れに二つものスキー場開発されてね
ちょっとしたのスポーツリゾートブームがやってきたわけ。
お金のない若者にとって、この安宿はありがたかったみたいで、
休日になると本館、別館とも大忙しだったの
あの時が日吉旅館の最盛期だったの。
そんな永吉だけど、学生の頃一緒に練習していたメンバーを集め
竹生高校OBとして新しく竹生ボート倶楽部を設立したんだ。
世はまさにボートブーム、各県で県大会が行われる中で
県もボート競技大会が開催されることになったの
資格は20歳以上の男子で8人1チーム。
スタート地点は浜の生まれ故郷の黒壁町を出発して
弁天島を通過しゴール竹生町までの全長30キロのボートレース。
特に強豪と言われていた、竹生と黒壁の激闘が県内のボートファンたちを
熱狂させたの。
それから永吉のチームは練習に練習をかさねて、レースの日を迎えたの。
スタート一時間前、ピリピリと緊張する竹生ボートチームのまえに
三人の女性がたづねてきて。♥
「ああ、
「いいえ、永吉さんが参加されるって聞いたさかいに、ナイショで応援にきました。」
「あはは、ですよね、ここは黒壁町ですもんね。」
「お姉さんたちもお元気そうで。」
「あの、浜は元気にしていますでしょうか?電話では話すんですが、あの子あまり顔みせへんから。」
「今度、浜と日吉と小海を連れて遊びに参りますので。」
「日吉も、小海も二人とももう小学生やろ、かわいいさかりやんか、なぁこの子らが早く孫の顔みせてくれたらええんやけど。」
「ちょっと、おかあちゃん!またそれ言う。」
♡次女の舟が拳を濁ってガッツポーズをして声を殺してささやいたの。♥
「永吉さん千成家は応援してるよ、がんばってね!」
♡永吉は姉たちに丁寧に頭を下げた。そして戦う表情に変わりチームのボートに向かっていく。♥
『さぁ、こちら黒壁スタート場です。県内の腕っぷしの強いボート猛者たちが
一斉にスタート地点に並びました。
優勝を手にするのは一体どのチームなのでしょうか?
地力のある竹生ボートクラブか。それとも
大学生中心のチーム黒壁レースクラブか
全日本大会で準優勝した日牟礼チームでしょうか。
群雄割拠の強豪ひしめく県のボート猛者たちが
今か今かと、開始の合図を待っています。
さぁ!頭上から降りそそぐ太陽のもと、
十六本腕がのオールが水面を掴みました。』
♡正午に岸から花火が打ち上がったの。
八艘のボートが水しぶきを上げならが
青い湖面に白い波紋をハの字につけて進んでいくわ。
三強の一角と言われている、日牟礼チームがボート一つ先にでると、
同じ距離で黒壁と、竹生が後を追ったの、
次第にその三艘が後ろの五艘を切り離していき
3チームとも肉薄した状態に。♥
『この競技は特設された、竹生、黒壁、日牟礼の
ラジオアンテナから放送しております
現在弁天島まであと一キロ地点。
先頭は黒壁で、そのあと、日牟礼と続き、
♡リードしている情報が入り黒壁では先頭のはどよめきが起こり、
竹生では、みんな強く拳を握ってボートのいちばん早い帰りをまっていたわ。
三艘は最短距離で真直ぐに進んでいたんだけど、
突然最後尾の竹生のボートが大きくコースを山側に取り湾曲するように
漕ぎ出したんだ。
並走しながら、みるみるうちに二艘と距離をあけいく
湾曲したコース取りで膨らんだ分、距離が伸びてしまうから
すこし後方につけてしまったの。♥
『おっとこれはどうしたことでしょうか?
最後尾の竹生チームが列を離れ大きく山側に湾曲しております。
これは何かの戦法か?それとも采配のミスか!』
♡ゴールまでどんどん距離を詰めていく黒壁と日牟礼のボートを横目に
竹生のボートははるか三百メートル斜め後方を走っている
誰の目からも竹生が不利だとわかるわ。
ゴール地点で応援している浜たちはラジオに向かって祈っているの、
「無事に帰ってきてほしい」ってね。♥
「永吉め、あいつめやりやがった、風を掴みやがったな!」
♡浜の横で見ていた漁師がそう呟くと、浜にむかって、あんたの旦那の優勝だ!
そう言ってその場を立ち去ってしまったの。
そう、湖北の特殊な地形は、西よりの風が琵琶湖をわたるとき
山側の風は逆に渦を巻くように東寄りの風が立つの。
大きく膨らんだポイントは実は風が切り替わる分岐で
まっすぐ進んでいる黒壁、日牟礼の2艘は正面から風を前から浴び
波の毛羽立った湖面に足を取られスピード落ちてしまったの。
その差を挽回するかのように永吉の乗った竹生の船は
斜め後ろからの追い風に乗って穏やかな湖面を斜めからつき進んでくる。
ようやくゴール地点から肉眼で3艘のボートが見えたの
直線に進んでくる2艘と、湾曲して入ってくる永吉のボート。
意地と意地がぶつかりあい男たちの腕も悲鳴を上げている、
どこが勝つか全くわからない状況なの。♥
「日吉、小海、見てみ!おとうちゃん!お父ちゃんお船が帰ってきたで!」
「ほんまや、おとうちゃんや!おとちゃんや!」
「おにーちゃん、どこにお父ちゃんいはるん?」
「小海、あっちや、斜めにほうや。」
「ほんまや!お父ちゃんのお船や!」
『どーん!どん!』
♡花火が上がり、真っ白な船がゴールテープをちぎったの
そう、永吉が指揮をとる竹生チームが風を味方につけ優勝したの。
普段からゴール地点を本拠地としている、竹生チームに分があったのね。♥
『優勝は竹生チームです、竹生チームが、第一回県ボートレースの栄冠をつかみました!』
『どおぉぉぉぉぉ!』
♡竹生の町は人々の歓声で地面が震えるほど住民は喜んだの。
時代の波に弾かれてしまったこの街。
住民が減って行く中。先の不安を抱えながらくらしていた人たちの
重たい気分がレース優勝で吹き飛んでしまったの。
永吉は表彰台からすぐにおりて浜のもとに駆け寄り思い切り抱きしめたの。
思いもよらす抱きしめられた浜はそっと永吉の胸に頬をうずめて。♥
「おかえりなさい。永吉さん」
「向こうでお母さんたちに会ったよ、たまには顔みせてって言ってたよ、こんど時間作って日吉と小海連れていこう。」
「おとーちゃん!すごい!すごいよ!高ぐるまして!」
「何いうてんの日吉おとーちゃんつかれて、、、」
「来い!日吉!」
「やった!僕のお父ちゃんは日本一や!」
「日吉を高々と持ち上げ永吉は肩車をする、日吉の目からは、
優勝を褒め称える人々の歓声が姿がみえていた。」
「おかぁあちゃん、小海はだっこして。」
「小海は甘えっこやな!」
「おかぁあちゃん、このキラキラひかるやつ小海もほしい。」
「これはお父ちゃんからもろたもんや、ほうやな、小海がいい子にしてて10歳になったらあげるわ。」
「ほんまにええ子にしてたら、くれるん?」
「うん、大好きな小海ちゃんやからあげるわ。」
♡浜は抱き上げた小海の柔らかい頬に鼻先あててフニフニとかわいがっている。小海もくすぐったをそうにはしゃいでいるわね。
いま、浜にとって一番最高の時間、すべてが光につつまれて、
人も、空も、土も、湖も、咲き乱れる夏の花々まで彼女たちを
祝福しているみたいだったの。♥
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