第42話 上陸作戦




♡マキノたちを乗せた観光船は爽やかな風とともに、鏡のような真っ平らな湖面に白いハの字の波きり紋を描き進んでいく。


 美しく、神々こうごうしく、そして高い、そんな弁天島。

そう、ここが私の住処おうち、あなたたちを呼べて本当にうれしいわ。♥





「こが弁天島なんだ、なんかすごく神秘的ね。」


「パワースポットみたい、心が洗われていくみたいな。」


「でもすげー急な階段だな。」





♡船が桟橋につくと5人は島に降り立ち島の奥に進む

賑やかな土産物屋を通り抜けると、そこには急な石段が空に伸びている。

私の住む弁財天堂は、島の急斜面を利用して造られた石階段の上にあるの。♥





「スゴイ角度ノ階段デスネ。」


「ねぇ、久しぶりにあれやんない!」


「もう!あさひのはもういいよぉ。」


「いいねぇ、やろうじゃん!」


「良イデスェ。」


「じゃぁ、さっき売店で見たわらび餅にしようよ。」


「いいじゃん。マキノもいいよね。」


「わかった、わかった。でもこの階段スゴイ段数あるよ、あんたたちそんなヒールで大丈夫?」


『じゃぁ、ハンディちょうだい!』


「一度に声合わせて言わないでよ。わかった、じゃあ10段。」


「ブーブーブー」


「20段とか……」


「あんたぺたんこ靴だから平気だろうけど、こっちはねぇ。

それにさっきって豪語してたしねぇ。」


「わかった、50段でどう!」


「よし乗った!じゃぁ、スタートはマキノが声かけろよ!」





♡ヒール履きの5人がゆっくり階段を50段登っていくのを

マキノが下から見上げている。


 マキノからどんどん遠く離れていくメンバーたち

心の中に4人と一緒にいたい気持ちが湧き上がって来たの。♥





「じゃぁ行くわよ、よーい、どん!」


「えっ、ちょ、汚いぞ!」





♡四人はその場でヒールを脱いで素足になり、そしてその足で階段を駆け上がりはじめたの。♥





「えっ、誰も履いたまま登るって言ってないもん!」


「なによ!この卑怯もん!」


「勝つための作戦よ!嫌なら私たちに追いついてみなさい!」


「このぉ!誰があんたらなんかに負けるか!」





♡突如開始された階段登り、50段の差があるんだけどポテンシャル女のマキノは徐々に四人との間を詰めていく。


 逃げる四人に追いあげるマキノ、ゴールの最終階段はそこにみえている。

階段を全速力で駆け上がりながら、五人で暮らしてきた懐かしい日々をおもいだしていたの。

 うまくやれない時もみんなが支えてくれていた、beni5がマキノの心のふるさとだってね。♥





「はぁはぁ、マキノの負けェ。」





♡マキノの追い上げはすざましいものがあったんだけど、

2段差でいぶきを追い越せなかったみたい。

5人の女たちが化粧崩れも何のその。汗かきながら、ベンチに腰掛けて息を整えている。♥





「負けたわよ、下に降りたらわらび餅食べよ。」


「はぁはぁ、やっぱおまえはバケモンだな、50段のハンディがなかったら俺負けてたぜ。」


「ほんと、息も普通だし。はぁはぁ、もう少し休ませて。」


「ハァハァ!マキノサンハモンスターデス。」


「あたしを化けモノ扱いしないでよ!」





♡息切れしている四人のためにお茶を買ってきて回し飲みしているわ。

負けたけど、息切れして動けない四人の前に仁王立ちになり、自慢げにこう言い放ったの。♥





「試合には負けたけど、あんたたちには勝ったわ!」


『意味わかんねー。』





♡息を整えた5人はやっとわたしに会いにくるの。

このお堂に祀られているのがそう…私、マキノを竹生に呼んだ張本人よ。


 私の生まれ変わりの子供が、いま目の前で手を合わせて祈ってくれている

ああ、なんて、甘くて美しい祈りなんだろうか。♥





「しかし、弁天てデカイんだな、デカ女だ。」


「うん、デカイよね」





♡オメーラ!ばちるぞ!(`Д´)♥





「でもすごく綺麗な顔してるじゃん、神秘的ですごくパワーありそう。」


「そうそう。パワーあるとこなんかマキノみたい。」


「あんたたち、神様の前で失礼だよ!」




♡いいのよマキノ。この子たちの愛に守られていなかったら、あんたはここにはいないんだから。いい縁を持ったわね一生大切にしなさい。


 私に顔を見せてくれた後、傾斜を利用してつくられたいくつかの伽藍を廻り、弁天島自慢の最後のビューポイントに5人はやってたの。♥




「わぁ綺麗キレイ!すごい!こんな景色見た事ない!まるで神様の世界みたいだよ!マキノ!」


「すごぉい!本当に神様の住処みたいだね。」




♡高台から見下ろした紺碧の湖(うみ)、そこから突き出たように見える鳥居と

白く立ち上る入道雲が空と湖面に映えている。


 鳥居の足元には真っ白な砂ののようなものがしきつめられているんんだけど、それは湖に向かって投げられた小さな瓦の跡なんだ。♥





「瓦投げだって、おもしろそう、やってみようよ!」


「うん、誰が一番飛ばせるか競争だ!」


「あんたら本当に競争好きね。」





♡境内で小さく真っ白な素焼きの円板状の瓦を買い湖に向かって飛ばす。

シュルルル!と空を滑空し鳥居を超えて湖にすいこまれていく。

次、また次と、投げ込まれる瓦の軌跡を楽しみながら、美しい景色にみとれているわ。♥




「マキノ、あんたどんだけ瓦飛ばすのよ!」


「ちょっと力が入っちゃった。」


「プロのピッチャーか!」


「あはははは!」


「さぁ、帰ろうか。いい日だったね。」




♡一同は高台の神社にお参りして帰る、階段を降りる時、あさひがちょっと足をひねってしまったみたい、急だからね。大丈夫?♥





「あさひ大丈夫!」


「イタァ、足首ひねっちゃった、平気よ。イテテ!」


「ほら、ほら、おいで!」





♡マキノがあさひに背を向けてしゃがみ軽々とあさひを背負ったの

いぶきと、さくらが二人のカバンをもち5人は階段をおりていく

マキノの背中におぶられたあさひが耳元で囁いたんだ。♥





「マキノありがと、楽しかった、今度はおばあちゃん連れておいでよ

ウチらがおばあちゃんを接待したい。」


「えっ、ゲストはあたしでなくて、浜さ…おばあちゃんなんだ。」


「やっとあえた、おばあちゃんでしょ、いっぱい孝行してあげて。ウチらのぶんまで、めいっぱい、甘えてあげてね。」


「ばか、あさひったら。…わかった。」





♡五人はゆっくり階段を降り、土産物屋の一角の茶店であさひを椅子に座らせてあげるの、しばらくすると、あさひの足も痛みが引いちゃったみたい。


 階段勝負に負けたマキノがわらび餅を5人前をオーダーすると、腰の曲がった老婆がお盆に5皿乗せて歩いてきて、マキノの顔を見ながらにっこりと笑顔を浮かべ机に皿を並べてくれたの。


 美味しそうなわらび餅を頬張っていると、会話も弾み時間が過ぎてゆく。さっきまで頭上にあった太陽がすっかり西に傾き、夕日が周りあたりを優しくつつんでいる5人の周り人幸せで芳醇な時間がながれているね。♥




「お嬢ちゃんたち、仲よさそうやね。ずっといい友達でいいや。」




『間も無く、黒壁行きの船が参ります。ご乗船の方は桟橋までお集まりください。』




♡支払いしようとするマキノに、4人がやっぱりそれぞれお金を払おうと小競り合いになってるね、結局マキノがみんなをブロックして支払いをすませ、西日があたる桟橋で黒壁行きの船を待っているんだ。


 しばらくすると対岸から来た黒壁行きの船が桟橋に停泊し、船をバックにマキノは再開を約束して一人一人と固いハグをしたの。

最後のあさひだけはみんなよりもちょっと長く、

後ろ髪を引かれる思いで4人はデッキに駆け上がると。。。♥





「ワンツー!」




♡船上であさひが掛け声をかけると、4人は一斉にアカペラで歌い出したんだ。♥




♪君と出会ったあの街角で、私たちはずっと笑いあってた。


♪ずっといつも一緒だった、雨の日も、風の日もずっとずっと歩いてきた。

 

♪二人を引き裂く辛い時間、でもあなたがいつもころにいるから生きていける。


♪違う町で暮らしていっても、いつまでも忘れないよ。


♪瞳を閉じればあのころの思い出があふれてくる。


♪また会えるまでの少しの時間、元気でくらしていこうね。


♪あいしてるー、あいしてるー、いつもどこで暮らしていっても。

 

♪あいしてるー、あいしてるー。


♪ずっとあいしてるよー


♪ずっとあいしてるよぉ♪




『17時30分黒壁いき、最終出航します!』


『おぼぉぉぉぉ!』





「マキノ!こんどは浜さん連れて。」


「マキノ、オメデトウ!元気デネ!」


「おい!ばーちゃん大切にするんだぞ!」


「まきの!!!泣くな!前を見ろ!あいしてるよ!」





♡別れの汽笛で船が桟橋から離れていく。声も出ないくらいマキノのは泣いていたわ。船は無情にもマキノをひとり残して島から離れていく。

 

 小さくなっていく船の上の4人がマキノに手を振っている、その姿はもう見え無くなってしまったの。


 そう、この場所は浜がいつも永吉を見送っていたあの場所浜の青春の場所でもあるの。


 マキノはみんなが笑顔でおくりだしてくれたあの日のことを思い出していた。

始発の東京の駅で、4人が見送ってくれたことみんな笑顔でいてくれていたこと今思うと、送り出してくれた人の辛さをかみしめている。


 東京。あの4人がいる場所も、れっきとしたあなたのふるさとなの、そう、過ごしたぬくもりは決して消えることはないの。♥




「みんな、ありがとう、あいしてるよ。」




♡来るときはあんなに楽しかったのに、いまは切ない気持ちで胸が押しつぶされそうになっている。


 いまはマキノだけが竹生行きの船の中、肩が寂しそうに泣いてている、みんなと会ってたった、一日しかたっていないけど5人で過ごしたあの青春の時間はマキノの宝物だと再認識しているんだ。


 もう泣かないと決めて下船したんだけど。♥






「マキちゃん、おかえり!」


「マキノちゃんおかえり。」





♡ロケから帰ってきた莉央と浜が、竹生の白い桟橋の上でマキノの帰りをまっていたんだ。泣かないって決めていたのに、また涙が溢れてきて。


 浜はマキノが泣き止むまでずっと桟橋の上で抱きしめてくれて莉央はマキノの背中をさすっている。♥




「おばあちゃん、莉央ちゃん、ありがと。」





♡もう、マキノは浜のことを素直に「おばあちゃん」と呼べるようになっていたの。


そしてしばらくして、浜にあさひからメールが届いたの。♥




+ + + + + + + + + +



「おばあちゃんあさひです、メールでごめんなさい

おばあちゃんと話すと泣けちゃいそうなんでメールしました

昨日今日は本当にありがとうございました。


 黒壁でおばあちゃんのお姉さん二人に迎えていただいて

旅館の車で新幹線の駅まで送っていただいて感謝です。


 ぜひまた、みんなでお伺いしたいです。

それまでお体を大切にしてください、会って甘えられることを楽しみにしています。


おばあちゃんへ マキノの姉妹たちより。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る