第10話 暗黙の了解
♡前に登場して酔い潰れていたチビメガネが役場の定時後、仕事仲間を引き連れて居酒屋日吉にやってくる。
常連客で賑やかなのにさらに人で溢れかえっているわ。
毎日のように屈託のない笑顔が広がる店内。
厨房で一人包丁をふるっている日吉も料理におおわらわ、そんなことは御構い無しに客が次々と注文を告げていくの。♥
「こんばんは、あれ今日もまた居酒屋日吉は
「おお、いっちゃん今日は早いじゃん、あら、役場のみんなも、らっしゃい!」
「ビール6つと、おでん、たまごやき、げそ、土手、さしみ………ハイハイ、ちょっと待ってね。」
♡マキノが住まわせてもらっている部屋から日吉がバタバタと動いている声がきこえるの。
日吉のことが気になって、気になって、奥の扉から居酒屋スペースに出て行って居酒屋の手伝いを申し出たの。♥
「日吉さん忙しそうだし、あたし何かお手伝いしましょうか?」
「えっ、そう、マキノちゃん悪いね、じゃぁお願いしてもいいかな?」
「はいっ!よろこんで!」
♡マキノは日吉がカウンターから出した料理を次々と客のテーブルまで運び
客からビールの注文を聞くと、複数のジョッキを器用に手に取り
ビールサーバーから綺麗な泡を残してビールを注いでいく。
高校生の時に飲み物の売り子し結果を出したのは伊達じゃないみたいね。
マキノはまるで昔から店を切り盛りしているおかみさんのように
無駄のない動きで次々に注文をさばいていく。
奥のテーブルで浜と、缶詰王子こと優作の祖母の珠代と浜が飲んでいて
二人はマキノを眺めているわ。♥
「いい!マキノちゃん優作の嫁に来てほしいわ!」
「なに言うてんの、珠ちゃん、マキノちゃんはまだここに来たばかりやで。」
「ほんでも浜ちゃん、あの子、気さくやし、気も
「あっ、ばれた?」
♡古くさーいイメージの居酒屋だったけど、マキノが手伝っているだけで
「パッと」花が咲いたみたいに店の印象が明るくなったわね。♥
「…はい、お待ちどうさま、ビール5杯と手羽先と、刺身と、おでんですね。」
「まぁ
「だめですよ、ぼく車ですから。」
「軍隊式の公務員は固いのう。」
「当たり前でしょ、てか、みなさんも役場の公務員じゃないですか!」
「それよりさぁ、マキノちゃんマジでどこかで見たことあるんだよね~ぇ」
「
「なんや、
「あはははははは。」
「オネーサンの名前なんていうんや?」
「高島マキノっていいます。」
「えっ、高島マキノってbeni5のマキノちゃん?」
「えっと、そんなわけ無いじゃないですか、ただの同姓同名ですよ。」
「確かに、毒子とは雰囲気がちがうわな。ごめんね、変なこと言っちゃって。」
「はいはい!俺は。浩二、俺は健三、ほんでこいつが、武史、そいつとそいつが……あのメガネが
「一夫さんは何回かお話しましたもんね~。」
「なんや!おまえ、抜け駆けしやがって!」
「決めた、わしら、まきのちゃんの親衛隊になる!たった今ここで結成や!」
「それにしても、マキノちゃん「
「えっ?小海さんって誰ですか?」
「し~ん」
「おい浩二!おまえ余計なこと言うな!」
♡たくさん、おっさん名前が出てきたけど覚えなくていいわ。
重要人物以外は
「小海」という名前はどうも店のタブーみたい。
今まで騒いでいた連中の口がとまり居酒屋日吉が凍りついたの、
なんか変な空気になってしまったのね。
陽気だったオヤジ連中が下を向く中、浜が口火を切って。♥
「いややねぇ!シーンとしてしもて、ほら、
せっかくこうやって集まってるんやし、
♡どことなく浜はカラ元気で空気を変えようとしているように思ったの。
何かしらそこには暗黙の了解があるようで、マキノはその小海という女性について追って聞こうとはしなかったわ。♥
「はいはい!じゃあ玉子焼!俺おでん、俺は刺身!」
♡店の中に再び笑顔が灯る、店の端にいる浜の顔の表情は少し陰りがあるようで、それを察した珠代は耳もとでこそっと浜に話しかけて。♥
「浜ちゃんごめんなじつはウチ、煮出しの休憩時間にマキノちゃんに
お母さんの名前聞いたんよ、そしたら、アイカとか言うてたわ
ウチももしかしてと思ったんやけど、マキノちゃん
小海ちゃんの名前を知らんっていうし!」
♡じつはね、今ここにはいないけど、日吉の下に小海という娘がいるの。
年の頃でいうと50前くらいで、ちょどマキノくらいの子供がいる年齢かな。
マキノは、娘の小海の若い頃にそっくりで、顔、雰囲気、声、その全てが生き写しのようだったの。
浜の目にはマキノが小海に見えていたんだと思う、でも、マキノが小海の名前を知らないことから、かすかに期待していた孫ではなく、他人だと認識したみたいで。
付き合いの長い珠代は心中を見抜いて、そっと寂しがる浜をなだめていたんだ。♥
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