第09話 弁天島
♡マキノが漕ぎ出した自転車は湖の奥へ奥へと進んでいる。
春のそよ風が、鏡のように凪いでいる湖面の上を通り過ぎていく
浜辺の水は蒼く透き通り、浅瀬で泳いでいる魚の鱗がキラキラと光っているわ。
湖岸壁に生えているソメイヨシノの萌黄が湖に向かって枝を伸ばし、下からの水面の反射光で若葉がライムグリーンに輝き初夏の香りをつれてくる。
自転車は何度か曲がり角を曲がると、サーっと一気に目の前が広がり、鏡のような湖面の奥に一つの島が姿をあらわすの、この島は弁天島。そう、私が住んでいる島。♥
「あの綺麗な島、まるで海に浮かんでいるみたい、なんて島なんだろ?………えっと、弁天島っていうんだ。あそこに行ってみたいなぁ。。。
ぐぐぐぅ、お腹減ってきちゃった、そうだ!カンパンもらったんだったっけ。」
♡スマホってすごく便利みたいね、遠く離れた人間同士で話したり、写真を見たり、好きな曲を聴いたり、地図を見たりさ、まぁ神様にはそんなもの必要ないんだけどね。
その道具で
路肩に腰掛けて西日が照らす島の姿を見ながら、缶詰王子にもらったカンパンをかじりっている、あんたそろそろ帰らなくていいの?ここから遠いよ
仕方ないわね、気づいてないみたいだから、カラスの使いでも送ろうか。♥
「カァカァ!カァカァ」
「ヤバイ!カラスが鳴いてる、わたし、調子に乗ってこんなところまで来ちゃったんだ、そろそろ帰らなきゃ。そうだ、浜さんに電話しとこ。」
「……もしもし浜さん、あの、今ちょっと遠くまできてしまって、今から帰りますね、えっと、弁天島が見える湖の見る曲がり角の堤防にきています。
うん、はい、大丈夫です、スマホで地図を見ながら帰れますから。」
♡あら、そのスマホってやつもう電池が少ないんんじゃないの、暗くなる前に帰らないと本当に迷子になっちゃうよ、あんた全く知らない場所なんだし、それに方向音痴じゃなかったっけ?
空はパステルピンクに染まりやがて、紫が降ってくる、だんだんと青みが増しあたりは暗くなってしまってるけど。。。。ほら、迷っちゃったじゃん。。。♥
「どうしよう、スマホの電池なくなっちゃった。」
「ガシャン、ジャリジャリ。」
「あれっ?自転車を漕いでも走らない、なんで?なんで?」
「自転車壊れちゃったのかな?、なんかタルーンって弛んでるよぉ。」
♡ほら、言わんこっちゃないじゃん、それチェーンっていうの、それを直さないと走れないよ。てか、あんた自転車初めてでしょ、直し方知らないよね。
街灯の下で自転車を見ながら、仕方なく手で押しながらなんとなく明るい方に向かって歩き出す。
昼間ならともかく方向音痴のあなたが、街灯がぽつりぽつりとしか点灯していない暗い道を変えるのって大丈夫?
スマホも使えないから心細いよね、でもね………ちょうどいいのが来たわ。♥
「ブーン、キキッ、あのすみません、さっきの方ですよね?缶詰拾ってくれた。」
「あっ、はい、あああ!缶詰さん、さっきはカンパンいただいてありがとうございました。美味しかったです。」
♡薄暗い夜道を歩くマキノの横に軽バンが止まり、偶然通りかかった缶詰王子との再会。
てか、ほんの数時間しか経ってないけどさ、なんにせよこいつは気のいいやつだから、缶詰王子は車を路肩に停めて壊れた自転車をみてあげてるね。♥
「こんな暗い中、自転車を押して歩いてた女性が見えたんで、何かあったんですか?」
「はい、自転車の下がプラーンってなっちゃって、漕いでも走らなくて。」
「ちょっと見せてもらってもいいですか、ああ、チェーンが外れていますね。あの、直しますからちょっと貸してください。」
「自転車ってはじめて乗ったんで、どうしていいかわからずに焦ってて。。。」
「ガチっ、ジャリジャリ。はい直りましたよ。、どこまでいくんですか?」
「えっと竹生駅の近くです」
「ええ!ここから20キロはありますよ。自転車で1時間以上かかりますよ、よかったら自転車ごとお送りしましょうか?」
「いいえ、悪いです、近くにコンビニとかありませんか?スマホの電池買ってちょっと連絡したい人がいまして、この自転車を借りた方なんですけど。」
「僕のスマホ使います?あっ、そうか!電話番号とかわかんないですよね。」
「えっと、駅近くの居酒屋日吉の方なんですけど。」
「ん?日吉さんとこですか?もしかして浜さんとか?」
「そうそう、今津浜さんです、なんで知ってるんですか?」
「ああ、じつは僕のおばあちゃんの知り合いで。そうだ、居酒屋日吉なら番号わかります、電話してあげますよ。」
♡缶詰王子はスマホで居酒屋日吉に電話すると、ちょうど浜が電話口に出たの。
浜はなんかおどおどと心配した口調で缶詰王子と話してるわね、その会話を聞いているマキノはホッと安心したみたいね。♥
「うん、そうそう、白い服の女性、うん、ちょっと変わるね。………あの、浜さんです。」
「あああ!マキノちゃん!暗くなっても帰って来ないし電話もかからへんから心配したんやで、大丈夫か?」
「浜さんごめんなさい、自転車の、あの、なんだっけ?そう!チェーンが外れちゃって、押して歩いていたら、昼間知り合った男の人に助けてもらって。えっとぉ」
「その子は、優作ちゃん、ほら一緒に弁天味噌作っている、珠ちゃんのお孫さんよ。」
「えええ!そうなんですか!優作さんに自転車を直してもらったんで、今からそっち向かって帰りますね。ほんと心配させてすみません。」
「あかんよ、自転車乗って帰ってきたら、もう暗いから、優ちゃんにお願いしたげるから一緒に帰っておいで。」
「そんな悪いですよぉ!」
「あの、自転車を積みましたから、居酒屋日吉でいいんですよね。」
「ちょっと優作ちゃんに代わってくれる?」
「あっ、浜さん、いつもおばあちゃんがお世話になっています
ええ、いいですよ、というか、こんな暗い夜道に一人で危ないですよ
はい、送っていきますから
えっ、おばあちゃんも店に来てるんですかいいです、変わらなくても
ええ、じゃ、送っていきますね。」
「スミマセン本当にいいんですか?見ず知らずなのに助けてもらっちゃって。」
「いいえ、先に助けられたのは僕ですから、ほら、缶詰が、、、」
「あはは、そうでしたね。、カンパンありがとうございました、美味しかったです。」
「あの、あたし「高島まきの」って言います。よろしくお願いします」
「ぼ、ぼくは、
♡あれっ、なにこんどはマキノが赤くなってんの、だよね~まぁそうなるわな。あんた、ちゃんと安全運転で送り届けてもらうのよ。
えっ、話が
それよりさ、居酒屋日吉では、浜の親友であり、一緒にお味噌を作っている
「なに、浜ちゃん、マキノちゃんと優作が一緒にいるの?」
「いややわ。珠ちゃんなにニヤニヤしてんの。」
「優作もええ歳やのに彼女もおらへんから、それにマキノちゃんウチあのこ好っきやわぁ、すごいええ子やもん。」
「珠ちゃん、そやろ、あのこええ子やろ!」
「これがきっかけで優作の嫁になってくれたらええのに!」
「なんや、気が早いわ!珠ちゃん」
♡こっちはこっちで勝手に盛り上がってる、なにやらおばあちゃん二人が悪だくみしてるわよ、マキノ完全にロックオンねでもそれがあんたの運命だから。
そして居酒屋日吉の駐車場にヒロインを助けた王子の白い馬車ならぬ軽バンから自転車を下ろして、浜に挨拶にきたの。。。あっ、王子って優作のことね。♥
「浜さん、すみません遅くなりました。」
「マキノちゃん大丈夫やったか?古い自転車やから壊れたんやね、無事でよかったわ。ああ、優作ちゃんありがとうね。」
「珠代さん、優作さんに助けてもらってありがとうございました。」
「ええんよ気にせんでも、優作もマキノちゃんタイプみたいやし!」
「ちょっと、ばーちゃん!なに言ってんだよ!」
「こら、珠ちゃん、あははは。」
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