第31話 涙のプレゼント
♡話が確信にふれている途中だけど……
とっても重要だから、時間は50年前に
この竹生町の沖に弁天島があるんだけど
そさらにその対岸に
湖に隣接したテニスコートで、春先だというのに少女たちが当時は珍しいテニスクラブの活動に勤しんでいるね。
日焼けした少女がコートを素早く動き回ると、相手はそのスピードについていくので精いっぱい。相手の手元が狂ってしまいボールが大きく跳ね返りコートの外に出てしまったの。♥
「ごめん、浜ちゃん、早すぎてついていかれへんわ。」
「百合ちゃんの玉重たいからこっちも必死よ、ボール
「ごめん、頼むわ。」
♡桜が舞い散る4月の後半。公園のテニスコートで練習している彼女の名前は「
コートを飛び出して行ったボールを探して園内をうろうろと探しているのだけれどなかなか見つからなくて。
植え込みの根元、道路の側溝、転がっていきそうな場所を探していたの。
当時まだまだボールは超高級なものだったので、必死にさがしながら、はたと気がつくと湖の方まで来ていて。♥
「あの、君!もしかしてボールを探しているのかい?」
「えっ、はい、テニスコートから飛びだしてしまって。」
「これだろ?」
♡身長が高くマリンルックのスポーツウエアを着た男性が黄色いテニスボールを片手にもっていたの。
午後の日差しが波間にキラキラとひかり彼を背後から照らしているわね。ちょっとイイ男じゃん♥
「テニスの練習かぁ、さっき僕の足元に転がってきちゃってさ。」
「あっすみません。」
「はい、どうぞ。よかったね湖にボール飛び込まなくて。」
「拾っていただいて、ありがとうございます。あのぉ。黒壁の方ですか?」
「ああ、僕たち竹生高校のボート部でね。半ドンの日には練習で黒壁まできているんだよ」(半ドン=授業が午前中までのこと)
「えええ!対岸の竹生からこられたんですか?」
「そうだよ、ボートなら片道1時間半くらいかな。」
「そんな時間でこれるんですか、車で片道3時間はかかるのに。」
「湖をわたれば、直線距離だからそうは遠くないからね。」
「あのっ、ここにいつも来られているんですか?」
「だいたい、だから土曜日の午後だね。
えっと、後ろの女の子、君の友達じゃないの?」
「えっ、はっ、忘れていました。ほんとにありがとうございましたぁ!」
♡まぁ、ボートの君に、浜の一目惚れってやつかな。
それから毎週土曜日の午後になると、わざとボールを湖の方に飛ばして探しに行ってたの。
湖岸とコートを何往復もするもんだから、汗びっしょりになって練習していたわね、これには友達も
なかなか帰ってこないかと思うとこっそり逢引していたみたいで。
その頃は鉄道もなくて、道も山道。逢いたくても逢える距離ではなかったの、対岸に見えているのにね。
当時高校二年生の浜は進学かそれとも家業を手伝うか悩んでいたのね。
浜には、
そう千成旅館を引き継ぐ
浜の家は数百年も続く大きな宿屋の三人娘の末っ子だったんだ。♥
「あんた、どうすんの?進学するの、お勤めにでるの?」
「ん~とまだ考えてない。」
「ほっれやったら進学しなさい、ここは
「おかあちゃん、うち、ここで働こうかな。」
「何言うてんの!朝になっても自分で起きられへんのに、あきません。進学しなさい。」
「
「え~っと、まだ時間あるし浜もしたいこと変わるかもしれへんしなぁ。」
♡長女の凪は母と話している浜の襟元をつかみ、客のいない部屋に引っ張り込んでなにやら話し込んでいるわね。♥
「浜、ちょっとおいで!」
「凪姉ー、何すんの、いたたた!」
「浜、知ってるよ、ボートの君やろ。」
「凪姉ーちゃん、何で知ってんの!」
「ほら知ってるわ、あの人、竹生の
「えっ、旅館の跡取りなん?」
「そうや、あ~っあんた、知らんかったんかいな。
うちは、旅館協会の新年会に来てはったんで少ししゃべったけど。」
「何!凪ねーずるいわ!」
「なんで!あんた堅苦しい会に出たないって言うてたやん。」
「ほやけど、納得いかん!」
「ほんなん知らんわ。」
「なんで凪ねーちゃんがウチらのこと知ってるんよ。」
「テニス部の百合ちゃんから聞いたよ、土曜になったら練習にならへんて。」
「ああ!百合のやつ!誰にも言わんといてって言うたのに!」
「あほか!、そんなんバレバレやん、あんたももっとうまいことやらんと。あの人すごい人気やさかいに競争相手多いよ。
てか、あんたでは無理やから、このことは淡い思い出にして、お母ちゃんの言う通り大学に行ったら?」
「なんよ、お姉ちゃんは理解してくれると…えっ?ちょっと、待って。」
「凪ねーちゃん、うちもおかみさん修行できるようにおかーちゃんに言うてよ。」
「なんで、あんたがここ継ぐんか?………あっ!」
「えへへ、そう、競争相手多かったらおかみさん修行してる私の方が有利やん。」
「あきれたぁ、あんた。向こうさんあんたみたいに、色の黒いごぼうみたいな子相手にせえへんよ。」
「いくら凪ねーちゃんゆうたって怒るで!だれがごぼうやねん!」
♡季節は流れ新緑を過ぎ、そして青い空に白い雲が立ち上る季節になっていたの。
浜はテニス大会で優勝候補だったんだけど、もうテニスより気になることがあって、大会の結果は
青い空に黄色いテニスボールが吸い込まれてゲームセット
でもね、こちらの方は首尾よくやってるみたいだよ。
毎週日曜日は、観光船に乗って弁天島まで、そこには一足早く着いていた彼氏が待っていたの。
彼の名前は、
かっこいいから恋人候補者はたくさんいたみたいだけど、なぜかこの色黒のテニス少女に惹かれてしまったみたいで。
デートはお互いの中間の地、弁天島だったの。
浜は日曜日は早く起きお弁当を作って弁天島の桟橋で彼と会っていたのね。
二人は急な階段を登って、湖が見渡せる場所に腰掛けてお昼にお弁当を
二人で居られる時間は2時間ほどだったんだけど、浜にとっては夢のような時間だったの。
二人のデートはそれからも続きいてね、まばゆい夏が去り秋がおと連れようとしていたの。
観光船は12月になると来年の4月まで運休になるのね、だから深まる秋とともに永吉と逢える日も少なくなっていったわ。
浜の気持ちは紅葉のように真っ赤に燃えていたの、最終便でのデートはあっという間にステキな2時間が過ぎさり、サヨナラの言葉が怖かった。
二人は船を待つしばらくの間、桟橋に立ち赤い楓の葉が風に乗って散り始めるると、永吉は「きゅっ」っと浜を抱きしめたんだ。♥
「浜ちゃん、高校卒業したら家を継ぐため外で修行するんだ、だからもう。」
「永吉さんとここで過ごせたことはウチにとって幸せでした。本当にもう最後なんですね。」
♡高校三年生の永吉と二年生浜。淡くて儚い時間はあっという間に過ぎ去ってしまったの、残された一秒を慈しみ、人目もはばからずに抱き合う二人。
そう、もうすぐ雪の扉がお互いの行き来を塞いでしまうんだ。
永吉は自分の胸で泣いている浜の首元に、浜の欲しがっていたペンダントをかけてあげたの。♥
「浜ちゃん、今までありがとう、素敵な時間を僕にくれたから浜ちゃんが欲しがっていた弁天様のネックレス買っておいたんだ、貰ってくれるかい?」
「わぁ、キレイ。永吉さん、うれしいです、永吉さんだと思って大切にします。」
『間も無く竹生行きの年内の最終が出ます、乗船の方はお早くおねがいします。』
♡無情にも出港の汽笛がまだ若すぎる二人を引き裂くようにピリオドを打ったの
この船がでれば、もう会うこともできない。
そんな辛い思いをぎゅっと胸にしまいこみ精一杯の笑顔で船のデッキにたった永吉を見送っている浜。♥
「ぼぉぉぉぉ!」
「永吉さん、永吉さぁん」
「浜ちゃん!浜ちゃん!大好きだったよ!これからも元気でいてね!
サヨナラ!」
「永吉さん、永吉さぁん、永吉さん!えいきちさぁああああん」
♡船は桟橋を離れ、船のデッキで手を振る永吉が小さくなっていく。
浜は桟橋にへたりこみそのプレゼントされたネクレスを掴み永吉の暖かさをおもいだしていた。
声なき声で泣き、ボロボロととめどなく溢れる涙が、桟橋のコンクリートに涙の染みをつくっていく、一人残された浜は黒壁行きの最終船にのりこんだわ。
船内でどんどん大きくなっていく永吉への思い、対岸の竹生の明かりがぼやけながら、だんだん遠のいていったわ。
目を赤く腫らした浜が、生気無くふらふらと黒壁の桟橋に足を降ろすと
修行中の凪と、大学から帰ってきた舟が浜の最終の帰りを待っていたの。
姉の二人にはこうなることはわかっていたみたい
浜は泣き疲れた筈なのに、姉たちに抱きつき、また泣いていたんだ。♥
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます