第20話 キヅナ




「あイタタ、頭いてー。あれ、ここは……あっそうか、マキノのところか。」


「あさひ、起きた?朝だよ、ご飯食べよ。」


「えっ、ご飯って、えっ、わたし化粧したまま寝てたじゃん!」





♡ちょうど1年前マキノもそうやって目覚めて朝ごはん食べたんだよ。


 あさひがトコトコと階段を降りて香りのするほうにやってくると

今まで経験したことのない暖かい空間が広がっていたの。


 嬉しそうに朝の準備をするマキノは朝食を配膳してあげるの。

人の優しい雰囲気に包まれたあさひは、初めての竹生で朝を迎えたマキノのように瞳をうるわせている。

あさひは、ここがマキノの運命の地だったんだって直感したわ。♥





「さあ食べよ、てか、なに泣いてんのよ!変なのあさひ。」


「うん、いい香り、これこそ日本の朝って感じだね!」


「いただきます。」





♡まるで本当の家族のように四人が同じテーブルで暖かいご飯を食べている。


 あさひは…本当の両親さえ知らない女の子、人前では気丈にしているけど、ずっと家族の優しさがほしかったんだ。


 そんなあさひが心からの深くつながりをもっているマキノをね、連れ戻そうと思ってやってきたんだけど、この光景を見てマキノからこの幸せを奪ってはいけないと強く思ったみたい。


 だから、あさひもこのを楽しもうと思ったんだ。♥





「おいしい、これマキノが作ったの?」


「いや、浜さんだよ。わたしはお味噌汁を作っただけ。」


「そっかマキノが寮で作ってくれてた朝ごはんの玉子焼きに似てるなぁ。」


「そうかなぁ。」


「なんや。マキノちゃんって朝ごはん作ってたんかいな?」


「そうですよぉ、みんな全く家事しないんだから!」


「だって、オカンがしてくれてたんだもん。」


「あのね、都合のいい時だけその呼ばわりやめてくれる!」


「こわーい、おばーちゃん、マキノちゃんがいじめる。」


「あはは、二人は仲がええんやね。」


「あさひ本当に要領いいわね、関心するわ。そうだ、みんな元気してるの

一緒にで会社してるんでしょ、軌道には乗ったの?」


「ええ、なんとか、今ね日本中の名産を集めてネット販売しようと思ってね。

昨日は京都で出店者さんにプレゼンしてたのよ。」


「なんか、急に社長の顔になったじゃん、さっきまで浜さんにベタベタあまえてたのに。」


「おばーちゃん、またマキノちゃんがいじめるぅ。」


「よしよし、あさひちゃん。かわいそうやねぇ。」


「浜さんまで、あさひの調子に乗らないでよぉ!」


「さぁ、こうやって、元気そうなあんたの顔も見たし。

おばーちゃんにも甘えたし、日吉さんの美味しいご飯いただいたし。

あと、なんかあったっけ?何かいたなぁ。マキノそろそろ帰るわ。」


「なに!もう帰っちゃうの!昨日きたばっかじゃん!」


「いろいろと忙しくてね、ほんとは京都に泊まろうかなっておもってたんだけど、なんか来ちゃった!」


「え~、今日いろいろ案内しようとおもっていたのに。」


「なに、帰って欲しくないのかな。マキノさん」


「だって、そりゃ。。。うん。」


「ういやつじゃのう。」





♡突然やってきたあさひが、また突然帰って行くことに、

マキノは寂しさを押し殺ながら笑顔を作って、一つ隣の桜満開の駅まで送って行くの。♥





「わぁ、綺麗!なにこの桜!すごい!」


「ちょっと回り道してみたんだ。綺麗でしょ、竹生の桜。」


「すごいね、今度はみんな連れてくるよ。きっと喜ぶだろうなぁ。」


「ぜひぜひ、連れてきてよ!あっ、そうだ。あの、虎姫くん、いま、ちょっと一緒にイベントの企画をしているんだ。」


「えええ!あの、バカと!てか、あんた平気なの。」


「うん、もう昔のことだしね、それにこの街にとって必要な人だから。」


「アイツぶん殴ってやりたいよ、でもあんたがそう言うなら。

でもなんかあったら言いな飛んで行ってパンチ食らわせてやるから。」





♡昨日あんなに楽しみに迎えに行った駅が、今度は別れが悲しい駅に変わる。


 マキノはあさひのトランクを持ち階段を上っていくこの階段がいつまでも続けばいいとおもいながらすぐにプラットフォームに出てしまうの。


 柔らかい春の光が二人を優しく包み、桜の花びらが風に乗って二人の間をさらさらとすり抜けていく。

駅から見下ろせる青くあわうみは対岸まではっきりとみえていた。♥





「あのさ、マキノわたしも謝らないといけないことあるんだ。」


「なにさ?」


「あの占い行ったじゃん、実はあれ、嘘なの。」


「はぁ?どゆこと?」


「マキノがいなくなるのが怖かったんだ、だからあんたが失敗して私のところにすぐ帰って来てくてるように、やばそうな占いを紹介したの。ごめん!」


「はああん、あきれた。。。」


「マキノがさ、「あたし」みんなに相談したじゃん

わたしだけ最後まで反対していたんだよね、絶対マキノに出て行って欲しくないって、そんでねと言い争いになって。


 三人はマキノを一度は自由にさしてあげるべきだって説得されてしぶしぶ送り出したけど、わたしはマキノにはすぐに帰ってきてほしかった、だからずっと待ってたんだ。」


「あ、あさひぃ。」


「でも、来てよかった。わたし思ったんだ!

きっとマキノはここにいるべき人なんだって、なんでかわかんないけど。


 マキノを見送った東京駅で、小さくなっていくあんたを見たとき、

白いワンピ姿のマキノがタンポポの種に見えたの。

どこか遠くまで飛んで行ってしまって、知らないどこかで根を生やしてもう帰ってこないんだって。」


「あさひ。ごめん、そんなに思っていてくれたなんて気付かなくって。

わたしだって寂しかったけど。」





『間も無く一番線に京都行きの快速が止まります。白線の内側でおまちください。』





「でも、よかった、あんた、よくわかんないんだけど、きっと人生に勝ったんだよ、なんかだよ。だから頑張っていきな、みんなで遠くから見てるから。

ほら、笑えマキノ!お互いまた今からがんばろうね。」





♡あさひはマキノの頬を指でつまみ左右に引っ張りそして到着した電車に飛び乗ったの。

 別れの時間はまたたきのようにあっという間に流れ、お互い泣き笑いしている笑顔を見つめながら電車のドアが「プシュ」って閉じたの。


 ゆっくり走りだす電車のドアをマキノは追いかけたの、電車のガラスに両手をつけて必死に笑うあさひ。


 ガラス越しに声が聞こえないあさひの唇の動きにbeni5の歌のフレーズがきざまれていたのをマキノは読み取ったの。



「♪ずっと、ずっと愛してるよ♪」



 カエル色の電車は朝の光を浴びながら、春の空気に溶けるかのように遠くに小さく消えていく。

マキノはあの日、自分を送り出してくれたあさひの優しさがいまになって身にしみていたの。」♥





「あさひぃ!ずっと、ずっと、ずっと、あいしてるよ!」





♡ホームの端で見送るマキノの心はそう叫びつづけていたわ。♥

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