第18話 そして、あさひはやってくる




♡朝からマキノがそわそわしている、味噌の作業も終わった午後。


 取り立ての免許で弁天味噌協会の軽自動車「べ号」に乗って駅に向かっているの。そわそわ、そわそわ。ちょっと運転おぼついてないよ。

駅の駐車場に車を停めると、階段を二段抜かしでダダダダって駆け上がり

ホームに立ってその電車を待っているわ。


 季節はもう4月も半ば、

ホームにはちらはらと桜の花びらが風に乗って舞っている

マキノの頬をかすめた花びらは、ひらひらと線路に落ちていく

桜が満開の季節になったの。♥





『まもなく、二番線に電車がまいります。白線の内側にてお待ち下さい。』





♡緑色の電車が止まり「プシュー」っという音と共にドアが開く。そしてそのドアから全身真紅のスーツ女性がおりてきたの。♥





「あさひ!こっちだよ!」


「ああ!マキノォひさしぶり!」


「あさひ、元気してた?」


「あんたこそ!」





♡白いワンピースのマキノと、真紅のスーツのマキノが

人目をはばからずにハグをしている。

ちょっとあんたたち、こんな田舎の駅でかなり浮いてるわよ!

 マキノはあさひが持ってきた大きなスーツケースを持つとひょいと持ち上げて、あっけらかんとした顔をして階段を降りていくの。♥





「それ結構重いでしょ。あいかわらず、バカ力ね。」


「バカは余計よ、まぁ、バカだけど。」


「あんた、運転できるの?てか、あんたが仕事してる弁天味噌って車にでかく「べ」ってかいてあるんだ、マジでこっちでがんばっているんだねぇ。」


「うん!あさひがあの時あの占い屋さんに連れて行ってくれたおかげよ。」


「割り箸占いね。」


「そう、わりばしでね。あははは!」





♡車の横に大きく弁天味噌保存協会の「べ」とひらがなで書いてあるべ号。

協会の軽バンに、紅白の美女が二人並んで走っている

車内で積もりに積もった話をしながら

居酒屋日吉に到着し仲良く店内に入っていくの。♥





「ただいま!浜さん、日吉さん、東京からのおきゃくさん、

あらたあさひさんです。」


「遠いところからよう来はったね。さぁ、狭い店やけど座って。」


「いつもマキノちゃんから、あさひさんの噂は聞いているよ

マキノちゃんも今日は貸切したから、手伝いいいよゆっくりしてよ。」


「日吉さんわがまま言ってすみません。あれっ?」


「ああ、いっちゃんがどうしても飲みたいって言ったから、

マキノちゃんいいだろ?」




♡マキノがあさひを紹介すると、カウンターの隅で飲んでいたメガネ一夫が反応したのね。♥




「えっ!なに、えっ!どういうこと!えっ!あさひちゃん、、、、だよね」


「ナニこのメガネのおっさん。」


「ちょっと、あさひ!この人はいつもお世話になってるお客さんだよ。」


「そなんだ。いつもマキノがお世話になってます。」





♡そうだ、このメガネ、いつも古ぼけたポスターを見ながら

あさひが好きだとか、清楚だとか言ってたわね

まぁ、あと少しでその妄想がガラガラと音を立てて崩れていくんだけどね。♥





「えっ、懐かしい!なに、なんであのウチらのポスター残ってるの!デビューしてすぐの仕事だったよね。もう十年近く前じゃん。」


「うん、伊香さんが、まだbeni5のファンなんだって。」


「へぇ~、でさぁ、おっさん誰しなの。」


「もちろん、あさひさんですよ。」


「てか、ポスターのマキノの顔汚れてんじゃん!もう張り替えてもらったら?」


「それが、伊香さんがどうしてもこのポスターここに残したいって、日吉さんに言うからこのまま貼ってあるんだ。」


「あん!てめ!マキノ顔がこんな汚れたままでいいと思ってるのかよ!」


「えっ、どゆこと、マキノちゃん…えっやっぱりあのマキノちゃんなの?」


「あわわわ。なんで、なにがどうして、なんで。

まさか!beni5の、てか、あらたあさひぃ!で、高島マキノって、

やっぱりマキノちゃんだったんじゃん!うそ!マジかよぉ!」


「伊香さん騙すつもりはなかったんだけど…このこと内緒にしててね。」


「えええ!ちょい待ってよ。おれ。マキノちゃんにひどいこと言っちゃてたね、ゴメン!」


「いいですよ、全部本当のことですから。気にしないでください。」


「あん!んダテメーコラ!マキノにヒデー事言ったのかよ!

フツーウチらのファンなら顔と声でわかるだろ、あん!」


「ごめんなさい、ごめんなさい。酔っ払っていて、てか。

マキノちゃんがマキノちゃんって知らなくて、

本当すみません!」





♡あ〜あ。どっちが毒子なんだか。

メガネは平謝りで、居酒屋日吉の床にしゃがみ込み手を床について

土下座して謝ってるね。えっ、なんかこんなシーン最近みたわね。

ああ。ちょっと前に莉央が謝ってた、さすが親子ね、する事が一緒だね。

てか、わたし言ってなかったっけ。

このだってこと。♥





「ちょっと伊香さんやめてください。」


「不肖、伊香一夫いかかずお、高島マキノさんが高島マキノさんと知らずに罵詈雑言ばりぞうごんを申し上げた事をお許しください。」


「てめ!マキノの優しさにつけこんでひどい事いってたのかよ!」


「いや、本当に知らなかたんです、すみません。」


「立てよこら!」


「もう、あさひやめてってば、あんた、あたしの事になると見境ないんだから、伊香さんすみません、ちょっと荒っぽくて。」





♡あさひはすごい剣幕でメガネの胸ぐらを掴んで

今にも殴りかかりそうになっているのを必死にマキノが止めているわね。

メガネの中で何かが崩れちゃったんじゃないかな。


 元ヤンあさひの鬼の形相と迫力に大の男が涙流して泣いてる。

ふんっいい気味だわ、さらにそれに拍車をかけるように

一部始終を見ていたしてきて。♥




「あら、いっちゃん、あさひちゃんは真面目清楚で、

天使だって言うてたよね、それにこんな子と結婚したい、

さらに、付き合えるなら幽霊でもいいって。」


「反省しとりますっ!もう言いません、この店ではbeni5のことは

金輪際こんりんざい口にはしません!」


「もう、やめてったら、このお店の大切なお客さんなんだから、

日吉さんも笑ってないで止めてくださいよぉ。

浜さんも火に油を注がないで!」


「マキノがそう言うなら仕方ねーな、おっさん、命拾いしたな。」





♡あさひがシャツの胸元離すとメガネはへなへなとしゃがみこんで

なんか、いい気味って感じだけど…でも。

こいつ、あとでマキノたちのために力を発揮するんだよねぇ。

あっ、またネタバレしそうになっちゃった。♥





「こんばんは、あなたが、今津浜いまづはまさんですか?」


「うん、そうよぉ。マキノちゃんから聞いてるよ。

ずっと一緒に暮らしていたあらたあさひさんやね。」


「はい、マキノがお世話になっています。

要領が悪いですが、いい子なんで面倒みてやってください!」


「ちょっと、なに言うてんの!

こっちが無理言うてここで働いてもろてるんやで、

うちこそ姉妹同然に育ってきたあさひさんから

マキノちゃんを取り上げたみたいでごめんね。」


「いいえ、そんな。マキノとは電話でいつも話していますんで。」


「そんなに固くならんで、お客さんなんやし、

今日は二人でゆっくりお話しして、

この奥に二人で寝られるようにお布団用意しとくさかいに。」


「あ、ありがとうございます!」





♡一夫に対して威圧感で制圧していたあさひだけど、

浜にはなぜかどこか圧倒されているみたい。

さすがこの街の女を束ねる裏ボスだけあって貫禄がちがうね。♥





「あの、浜さんのお話しも聞きたいっす!」


「なに、ウチも混ぜてくれるの?」


「もちろんす!」


「なに、あさひ、その言葉、これじゃレディースの総会みたいじゃん。」


「えっ、マキノちゃんウチら女やからレディースやろ。」


「浜さんそれもそうですね。あはははは!」





♡女三人と、カンターの片隅でなんだか盛り上がり

置物のようにほんわりとした顔のメガネと、日吉が店を回している。


 みんなそれぞれ楽しそうね。しばらくすると、浜とあさひが上機嫌になり

あさひはへべれけになって、浜のことを「おばあちゃん」といって

甘えだしたの。♥





「おばあちゃん、そんでね。マキノったら、中学生の時にさ、

いじめっ子の柔道部男子を投げ飛ばしたんだよ。

すげー怪力でね、バーンって!」


「ちょっと、あんた飲み過ぎよ、それになによ浜さんをって。もう!」


「なによ、マキノもそう呼んだらいいじゃん、一緒に暮らして1年でしょ。」


「なにいってるのよ!、ほんと馬鹿なんだから。」


「えへへへへ。おばーちゃん。」





♡あさひは酔いつぶれてしまい、浜にもたれたまま寝てしまったみたい。

マキノはとあさひをもちあげて、寝床に連れて行こうとすると、あさひの瞳から涙がこぼれたの

と一言つぶやいて完全に寝てしまったみたい

きっと甘えられる大人が欲しかったのね。♥





「浜さんなんか、酔っぱらったあさひに付き合わせてごめんなさい。

このまま寝かせますね。多分朝まで起きないと思います。」


「まきのちゃん、…どっちがおねーちゃんかわからんな。

あさひちゃんを早よ寝かしてあげい。」


「はい、もう、でもあさひがこんなに酔い潰れるなんて珍しいなぁ。」





♡まきの、それはね、あんたと会えたからあさひはうれしすぎたのよ。

それに甘えられる大人がいたことが、更にうれしかったんじゃないかな。♥

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