第13話 地域創世先生



♡ところ変わって竹生町の青年会議所。


 むさ苦しい男たちの中に、モデルのような紅一点の20代の女性と

なんだかいけ好かない都会きどりの男が今後のこの町を盛り上げるため

「竹生町政百年祭実行委員」を開いているわ。


 百年祭の主催は、竹生町役場なんだけど役場だけでは手に負えないから

地元の青年団、自警団、青年商工会議所などなど、若手を集めてねイベントの企画を丸投げしているの。♥





「将来のお前達の町のために若者でいい企画をたのむ!」




♡…って言われてさ、本人達も躍起になっているみたいだけど

なんかりして、にっちもさっちもいかないのね。



 慣れないことでいいアイデアも浮かばずに、困り果てていたところ、

なんだか都会っぽい企画屋のを外部ブレーンとして招聘し、百年祭の企画に参加してもらおうってことになったの。


 この男は虎姫とらひめと言ってここ2年ほどで各地方のイベントを企画して成功させてきた地方創生アドバイザーとかいう、ちょっと胡散臭い奴なんだけど。

 ここにいるメンバーって純朴じゅんぼくというか何というか、

この男をあがめ立てて機嫌をとっているみたいね。♥





「みなさん、まず結果から先に言います!

私が来たからにはきっとイベントは成功するでしょう。

私は各地でイベントを盛り上げてきました、いわばイベント成功請負人なんで大船に乗った気分でいてください。


そこのお嬢さん、お名前は?」



「えっ?伊香莉央いかりおですけど、何か?」


「いえいえ、こんな田舎の中にもあなたのように綺麗な人がいるなんて驚きですよ」


「はっ、何言ってんの、あのこう言ってもね、わたしはねっ!」


「まぁまぁ、莉央落ち着いて。先生、こんな田舎にきてくださってありがとうございます」


「ちっ」




♡こいつ男前なんだけど、なんかちょっと鼻に付くのよね。

男たちは虎姫を持ち上げているけど、莉央は腕組みして怪訝けげんな表情で。


 みんなが先生をヨイショする中で、自警団を代表して参加している優作は「ぼーっと」していて。

それもそうよね、緊急夜間出勤明けで、なおかつトレーニングをこなして、その足で会議だもん仕方ないわよ、幼馴染の莉央りおがバカらしくて帰ろうとすると。優作が莉央を小声で止めてるね。♥



莉央りお、先生の気分をそこねたらダメだって、なっ。ここは落ち着いて。」


「何よ、先生だか何だか知らないけど、私たちを見下ろす目が気に入らないわ!

ねぇ、先生、百年祭ってどんなことするの、教えてよ。」





♡莉央が虎姫とらひめに向かって啖呵たんかを切ったの、もともと思ったことはズケズケという性分の莉央りお虎姫とらひめが対立すると思いきや、虎姫が莉央をかるくいなして。♥





「お嬢さんが言うのはもっともです、私の自己紹介をしていませんからね。


 私はこれまで、テクノよさこい祭、エレクトリカル精霊流し、ラップ盆踊りなど、テクノと和が融合したイベントを開催してきました。

この町に来てまだ二日目なんで、この町の良さをしりません、

なのでこのまちの長所ストロングポイントを案内してくれないかな。

莉央さんだったね。」


「な、なに言ってんの!なんでわたしがあんたを案内しなきゃいけないのよ!」


「なぁ莉央、先生が知りたいって言うてるから案内頼むわ!」





♡実行委員の委員長が莉央に頭をさげると、

次々と議場の男たちが次々と莉央にみんなが頭をさげているの。

でね莉央は「ぼーっと」している優作を指差して声を荒げたの。♥





「じゃぁ、優ちゃんも来なさいよ!いいでしょ、それにわたし免許持ってないし、タクシーで案内とか無理だし。」


「えっ、俺?、俺だっていろいろとあるから無理だよ!」


「何があるから無理なの!ねえ、優ちゃん!どうせ夜勤明けは家にいるんでしょ、いいよね。はい決まり!」





♡「ぼーっと」話半分で聞いていた優作は話を振られて慌てて、暇そうな2つ年上の近所の先輩に話を振ったのね。♥





「ええ!俺?ダメですよ、当直明けですもん。ちょっと荒川先輩!先輩は役場勤めでしょ、先輩が莉央と行ってくださいよぉ。」


「役場やって忙しいわ、ええやん、莉央と二人で竹生案内お願いするわ。」


「優ちゃん何に言ってるの、決まったことでしょ。男ならごちゃごちゃ言わない!」


「そうなんだ、安曇川優作あどがわゆうさく君だったっけ、君も来るの?

まぁ、足がないなら運転手としてならいいけど。

イベントは女性の目が大事だからね。…言っておくけど、君は運転手だからね!」


「わ、わかりました。」





♡ということで、いけ好かない先生のアイデア作りのために二人で

竹生町を案内するこになったんだけど…。



 なんだかしたしそうな優作と莉央の間柄を説明しましょうか。

二人は同い年で小学校入学から中学卒業まで、ず~っと同じクラス

いつも一緒に遊んでいたね。

 なんとなく付き合いそうだけど、お互い近すぎてそんな感情もないって雰囲気?まぁ、莉央の方はちょっと気があるみたいなんだけどね。いや、無いか。


で、その先生に竹生町を案内する前日、優作の携帯に莉央から電話が。♥





「ええええっ!莉央っ、明日来れないのか!」


「ごめん、優ちゃん。突然オーデイョンの話が入っちゃって、大阪なんだよ。」


「でもあの先生、女の人の感性でも見て欲しいって言ってたしなぁ。」


「だったら、優くんのおばあちゃんにでも頼んだら?きっとそっちの方がいいって!それに地元のことだから、弁天味噌の人の方がいいよ、とりあえずごめん、またうめめ合わせするから、ねっ。」




♡断りの電話を入れてきた莉央は、数百年続く和蝋燭わろうそく屋の一人娘。

 ちやほやされて育ってきたからだいぶワガママ、過去にはミス竹生になったことがあって、18歳で勝手に単身東京に行ってモデル事務所に入って仕事をしてたんだけど、

全く売れなくてねぇ。

 3年したら竹生に舞い戻ってきて今は…そんな感じでフラフラしているってわけ。

ごくたまに、大阪の所属事務所からタレントの仕事が来るくらいで。


 一方優作はというと、思いっきり莉央に断られて、仕方なく居酒屋日吉で呑んでいる珠代に相談するんだけど。♥





「えっ、あの噂の男前の先生かいな。行く行く!何なら先生と二人きりでで案内してあげようか!」


「先生は女の人の意見が聞きたいって言ってるし。。。でもばあちゃんでもいいかぁ。」


「なんや!ウチでは不満かいな?」


「なんなら、浜ちゃんも行かへん?行こう!みんなでワイワイ行こうなぁ。」


「ええ、うちはそんなん恥ずかしくていややわぁ。ん?そうや、マキノちゃん明日って用事あるの?」


「いいえ、明日は教習所も無いですし………もしよければ、あたしもいきましょうか?優作さんには助けてもらったお礼もできていなかったんで、あたしでもよかったら珠代さんと一緒にいきますよ。」


「そうか、マキノちゃん来てくれたら安心やわ。」


「ちょっと、珠ちゃん、なにをニヤニヤしてるん!」


「いいやわぁ、ニヤニヤなんかしてへんよぉ。ニヤニヤ。」

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