第28話 懇親会




♥竹生の観光ホテルで百周年の開催の成功を祈って、実行委員と協賛スポンサー

の懇親会が開かれていたの。


 立食形式で進められている会合で、莉央は紫のドレス、それに対してマキノはこの街に来た時に来ていたの白いワンピース。

胸元には水晶で作られた女神像のペンダントブローチをして、スポンサーのお偉い様と会話を交わしている。♥





「いつもお世話いただきありがとうございます。」


「ああ、君は噂の、弁天味噌のお嬢さんだろ。あの写真感動的だったなぁ、で、彼とうまく行ってんの?」


「えっ、あの、まだ、その、えっと。」





♥マキノが優作とのことに対して何も言えずに恥ずかしがっていると、その合間に莉央が割って入ってきて。♥





「あら、竹生電工の社長さん、そんなこと聞いたらだめよ、愛情は二人だけで育むものですわ。」


「そうだね、弁天味噌さん申し訳ない、で君は浜ちゃんのお孫さんかい?」


「いいえ、違います。私は別の街から来たので。」


「そうなんだ、小海ちゃんにそっくりだから孫かと思っちゃったよ。」


「小海って?あの日吉さんの妹さんですか?」


「ああ、そうだよ、小海ちゃんはミス弁天だったんだよ、街でもすごく人気があったんだけど、高校卒業と同時に芸能界に行くって、猛反対していた浜ちゃんと揉めてね。一人で竹生を飛び出して行っちゃったんだ。」


「そ、そうだったのですね。」





♥マキノは竹生に来てから「小海」という女性とよく似ていると言われていて。

その話題が出そうになると、まるでその情報をシャットアウトするかのように話題が変わっていたことに違和感を感じていたんだ。


 そして小海という合ったことのない女性のことを、勇気を出して目の前の男性に聞いてみたの。♥





「あの、その小海さんと、浜さんってどんな関係の親子だったのですか?」



「そうだね、すごく仲よかったんだいつも一緒にいてさ、小海ちゃん勉強はできるし、スポーツも得意で、それに力もすごくて味噌樽を軽々と持ち上げていたなぁ本当に浜ちゃんの自慢の娘だったんだよ。」



「そうなんですね、知りませんでした。でもなんで芸能界なんかに?」



「ミス弁天に選ばれてすぐだったかな。

弁天味噌の担い手として小海ちゃんにテレビ取材があってね。

テレビに出たら、街のアイドルみたいになちゃって、多分それで芸能界からスカウトの声が掛かったんじゃないかな?


 浜ちゃんは小海ちゃんを弁天味噌の後継者にと考えていてね

だから芸能界入りを大反対したんだよ。僕が知ってるのはそこまでだけど。」



「そうですか、浜さんはだから似ているあたしを、家に置いてくれているのかな?」



「浜ちゃんの気持ちはわかんないけど、それもあるかも知れないね。

浜ちゃんも小海ちゃんも頑固だったから、お互い自分の意思を曲げられなかったんだろうなぁ…。

 おっと、長く語ってしまったね、これで先ほどのご無礼はチャラにしていただけますかな。」



「いいえ、無礼なんて。お話が聞けてよかったです」





♥二人はしばらくスポンサー企業の人たちと話して休憩室でお茶を飲んで休んでいる。


 あんたたち、おじさんたちとあんだけ話せたら十分だよ、これで資金面も問題ないんじゃない。


莉央が向かい合って座っているマキノのペンダントを見て、興味をしめしたみたい。♥





「あ~疲れた、それにしてもマキちゃんおじさんキラーね、なんか上手に手玉てだまに取ってたじゃん。」


「失礼ね、ちゃんとお話を聞いていただけよ、莉央ちゃんだってなかなかセクシーだったわよ。」


「そうでしょ、現役ですから。てかそんなに仕事も無いんだけどね…

それより、マキちゃんのそのネックレス綺麗だね、なんか不思議なデザイン。」


「これね、10歳の誕生日にお母さんからもらったんだ。

今日うまくいくように願掛がんかけでこうやってお母さんについてきてもらったの。」


「そうなんだ、マキちゃん優しいからお母さんも優しかったんだろうね。」


「お母さんとの思い出が詰まったたった一つの宝物なの。」


「すごく綺麗で不思議なデザインだねちょっと見てもいいかな?」


「うん、いいよ。」




♥莉央は乳白色のキラキラする女神像のペンダントトップを見ている、

それは女神でなく、弁財天わたしよ!わたし!のデザイン。

女神像の裏には「EtoH」と文字が掘ってあったの。♥




「EtoHって書いてるね、お母さんの名前かな?」


「お母さん愛佳あいかだったからAだよ、

これたぶんおばあちゃんの名前かな?お母さんも10歳のときにおばあちゃんから貰ったって言ってたから。」


「そうなんだ、大切なネックレスだね。」


「あっ、そろそろ、実行委員長と市長の締めのスピーチがあるみたいだから行こうか。」



♥背が高くて体の大きい市長が緊張して言葉につまりながら、大汗をかいて竹生町百周年祭への意気込みを話している。


 朴訥ぼくとつとした話し方をする市長なんだけど、そのスピーチは集まった人たちの心を揺さぶり大きな拍手をもらって、和やかなまま懇親会の幕は閉じられたの。♥





「さぁ、帰ろ!あさひたちが待ってるから、莉央ちゃん行こう!」





♥メンバー全員と再開できることに喜びを感じているマキノを

莉央は羨ましいと思っているみたい。


 どちらかといえば人と対立してしまうことの多い莉央は心から

喜びあうことのできる親友っていうのがいなかったの

そんな莉央がはじめて心から許せると思ったのがマキノだったのね。


 まだちょっとくだけすぶっている優作への気持を、今は心の冷凍庫にしまいこみ二人で居酒屋日吉に向かったの。♥

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