第40話 伝説の男




♡二台に分かれて莉央号が先導する。

車がバイパスにのると湖を眼下に見下ろす高さで走っている

まるで夜間飛行のセスナのように、

青い湖面に黄色い満月が映っていたの

とてもロマンティックな風景に東京組は感動していたわ。


で莉央の運転する車では。。。♥




「莉央、明日マキノが観光に連れてってくれるんだけどさ、あんたも来なよ。」



「姉さん、あした朝からロケなんだ。てか、観光ルート作ったの私だけどね。」



「おお!さすが現役!、なんのロケなの?」



「えっと、お姉さま方に言うのはちょっと恥ずかしいんだけど、

なんかザリガニ釣りして、食べるみたいなの。」



「ちっとも恥ずかしくないよ、ちゃんとした仕事じゃん。」



「うん、そう言ってもらえるとうれしいな。」



「そうなんだ、莉央みたいに下積みしてる人に本当に頭あがんないの

なんだか、すごく悪いなぁって。」



「えっ、なにが悪いんですか?」



「うちら、下積みゼロなんだよ。」



「マジで!でもどうやってあんなトップアイドルになったの?」



「運が良かったというよりも、社長がすごかったのよ、伝説級なんだけどね。」



「伝説ってなんすか?とにかくすごい人なんですね。」



「ウチらみんなスカウトなの、莉央に言うのも何だけど

だいたいのこういうのってオーディションじゃん

うちらオーディションなしでここまで来たんだ。」



「ええええ!そんなことできるんだ!てか、事務所が大きかったのとかですか?」



「いいや、すごい弱小事務所だけど、

全部社長の力でさ、その社長ってのが突然この業界に現れ

どこかのオフィスからの独立とかでもなくて

今でも、社長が前になにしてた人か誰もわかんないのよ。


 不思議に思ってうちも調べてみたんだけどでもダメで。

本当に業界に彗星の如くあらわれたんだよね。」



「なんだか面白そうな社長さんすね。」



「そう、でもなんか胡散臭さがパなくてさぁ

ひょろっと背が高くて、目がギョロってしていて、関西弁で

まくし立てるようにマシンガントークで

とにかく相手に考える隙をあたえないのよ。

詐欺師でも社長なら引っかかるかもね。」



「デモトテモイイ人ダッタヨ、イッパイ励マシテクレタヨ。」



「そう、悩んでいるとスッと入ってきてあのギョロ目をチラつかせながら

問題の突破口をさらりと助言してくれるのよ、人を育てる天才かな。



 それとね、すごくお金の匂いをかぎ分けるのが天才なのよ!

その嗅覚ったら神がかっていたわね。」



「へぇ、でもそんなすごい人に、みなさん、どこでスカウトされたんすか?」



「わたしとマキノは高校の時に野球場の売り子をしてて、ひなつは経理のバイトで、いぶきはゲーセンで、サクラは?」



「私ハ英会話教室デナンパサレマシタ」



「ナンパって、変わったスカウトの人がいたんですね。英会話教室にまで通ってなんて。」



「いいや、みんな社長一人だよ、演出も、振り付けも、作詞、作曲、お弁当の手配、営業とか、全部一人でやってた

あっ、経理だけできなかったからひなつにさせていたわね。」



「エエエエエエエ!まじで!」



「マジで!」



「何なんすか!その人。今はなにをしてるんすか?」



「うん、もう亡くなちゃった。病気隠していてさ

誕生日会したら次の日に冷たくなってて、でもなんかめっちゃ笑顔だった。

もう全部やり尽くしたみたいに、笑ってた。」



「なんか悪いこと聞いちゃいましたね。」



「いいのよ、人生ハッピーな人だったから。」



「それより莉央はさこれからどうしたいの?」



「う~ん、なんか中途半端なんすよね。じつは、デビュー間も無くスタジオでやらかしちゃって、それで悩んでるんすよ。」



「えっ、なになに、何やらかしたの。お姉さんに言ってごらん。」



「うん、大阪でバラエティの仕事で

必死で営業がとってきてくれたゲスト枠だったんすけど

すごく緊張しちゃって、とちっちゃって。


突然スタジオのカメラが怖くなちゃったんです

大きなカメラをみると、息が止まりそうになるんすよ

ロケのハンディなら平気なんすけどね。」


「あっ!」



「えっ」



「ソレ、マキノト同ジデス!マキノモ苦労シテマシタ」



「えっ!マキちゃんが?」



「そうよ、何回か緊張しちゃって、でも、社長がマキノの耳元で何か言ったんだけど、そのあと緊張しなくなって。」



「えっ!マキちゃんそのカリスマ社長になに聞いたんっすか?」



「う~ん、わかんない。今度聞いてごらん。」



「まじ、マキちゃんもわたしと同じだったんだ。」





♡また謎のキャラが出てきたわね。

その社長ってメチャ怪しそうだけど、みんなからは慕われていたみたいで

まぁ、どこにでもそういう異端児っているものね。

それで景色もそっちのけで話に花を咲かせている莉央号だけど

後ろを走っているマキノ号はちょっとナーバスな話しているわ。♥





「あんた、イイとこに住んでるじゃん、それに優しそうな人にかこまれてさ、

ほんとあの時、あんたを送り出してよかったって思ったよ。」


「なによぉ、ひなつぅ!泣けてくるじゃん。」



「おれも浜さんが、マキノを抱いているの見て泣いちまった。」



「いぶきもありがと、なんかさ、いつもみんなに迷惑かけてごめんね。」



「だからさ!さっきあさひが言ったっしょ、お互い迷惑かけてなんぼだよ!ウチらは!」



「そうだぜ、お前はいつも背負いすぎるんだよ、俺たちのいる間だけでも楽にしてろよ。」



「いつもあさひと揉めたら、ひなつが仕切って

いぶきと、さくらが壊れそうなもの片づけてくれて。

二人が泣いてたら、三人で慰めてくれて、なつかしいなぁ。」



「ほんと、あんたらのせいでウチら喧嘩できなかったのよ、言いたいことなんか山ほどあったのに。」



「ごめんなさい。」



「でも、マジ毎日面白かったなぁ、合宿みてーでよ。疲れて寝転がってたらマキノが作ってくれるメシがたまんなくうまかったぜ!おれ、お前には感謝してたぜ。」



「あたしに、なんでよ。」



「マキノがなんでも受け入れてくれたから、みんなわがままできたんだよ

それに、いつも笑っていてくれたし。

マキノが出ていてからよぉ、あさひがずーっと塞ぎがちだったんだ。」



「あさひが?」



「そう、本人は気にしてないって強がっていたんだけど

ご飯食べてても、これマキノの好物だとか

ジャージでダラダラねっころびながら、マキノお腹減ったとかさ

なんかあるとマキノマキノって。


 無意識だろうけど口に名前を出してあんたを探していたわ

あまりにも未練がましから、追い出したの!合ってこい!

つらそうだら首に縄つけて引っ張ってこいよって。」



「そう、あさひが。そういえば2ヶ月前に京都の仕事とか言って家に来たわ。」



「嘘、うそ、ただあんたに会いたかっただけだよ。」



「あんたを連れ戻そうとおもってたみたいだけど、帰ってきて少ししょんぼりして、笑ってた。」



「でも、さっき久しぶりにやらかしてあいつもスッキリしてんじゃねーのか?

お前らがイチャ喧嘩してるの見ると、なんかこっちも泣けて笑えるんだよな。………まじ、たまにはあいつにぶつかってやってくれてよ。」



「なによ!いぶきまで、あたしを泣かすぅ!」



「きっと、あいつなりに答えが出たんじゃねーか

もう、おまえを探すのをやめようって。

 ほら、あいつも、おばあちゃんが見つかったみたいだしさ

見えない糸でつながってんだよ、みんな。」



「ばか。」



「さぁ、湿っぽいのやめよ、せっかくみんな集まったんだしさ。温泉温泉!」




♡5人プラス一人が温泉に浸かり体も心の凝りもほぐしていく。

女同士化粧をおとしたままで、

いままで過ごした楽しい思い出を手繰りよせながら、明日への道を探している。

そう、いまはすこし立ち止まって、また歩けるために力をつける時。

5人の瞳には、楽しかった思い出がお風呂の湯気の彼方に

蜃気楼のように見えていたの。♥




「ちょっと、莉央いい?」



「えっ、姉さん何?」



「これからもマキノをよろしく頼みます。」



「……頭なんか下げないで。

わたしにとっても、マキちゃんは生まれて初めての親友なんだから。」



「そっか。もう、心配なんかしてやんないよ。マキノ!」

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