第07話 古い自転車




♡それから数日後。麹菌がすみついたお味噌の作業場の窓から

柔らかい春陽が注ぎ込む。


 弁天味噌保存協会のメンバーに混じって味噌作りをしてもう半月。

まきのは先輩たちに混じって実際に作業しているわ、

てか、もういきなり主力じゃん!


 そんな休みの朝、作業で使った道具を外の納屋に運び終えたマキノと浜。

まるで浜は孫と一緒に作業をしているみたいでどことなくうれしそうだね、

ホント浜の笑顔久しぶりに見た気がするわ。


 グズついていた春雨前線も北に遠のき今日のそらは高く青い。マキノは納屋の中に使われなくなって久しい古い自転車をみつけたの。♥





「あの、浜さん、この自転車借りちゃっていいですか?

なんかこの街をもっと知りたくなっちゃった。」


「ああ、ええけど、でもそれ古いからちゃんと動くかな?」


「チリンチリン!きゃははは!きもちいいいい!、空もあおーぃ!」


「あっ、あの子もう乗ってるわ。」





♡マキノは生まれて初めて自転車にまたがったんだけど、

もう完全に乗りこなしているわ、さすがポテンシャル女。

………まるで女子高生みたいにキャキャと喜んじゃってさ、

浜がなんか懐かしそうな顔をしてマキノを見ているわ。♥





「浜さん、ちょっと自転車で走ってきま〜す。」


「マキノちゃん!あんまり遠くにいったらあかんよ!」

 

「はぁーい!」





♡マキノは片手を高く上げて手を振り、ペダルを踏んで前に前にと進んでいる。

古い自転車がスッと角を曲がると目の前に水平線が見えそうなくらい青く広い湖が飛び込んできたの。


 ひと漕ぎ、ふた漕ぎ。ペダルを踏み込むたびに生まれたての春の風が優しく頬を撫でる。耳元を通り過ぎる風きり音の一つ一つが音符となり春のマーチを奏でながら後方に流れてゆくようね。


 青く光る波打ち際を走る古い自転車、キラキラと乱反射する太陽の光が跳ね返りマキノの笑顔を空に映えさせている。都会育ちのマキノにとって、緑、水、風、山、島。全てが新鮮に映っているんだよね。♥





「めっちゃ!きもちいいじゃん!」

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