第05話 しあわせごはん
♡突然、居酒屋日吉にやってきてお味噌汁の味に感動して泣いちゃったマキノ。
その表情を見て直感で何かを悟った浜。
そうそうここの居酒屋もともと旅館だったの、だから寝る部屋はたくさんあったのよね。
浜はマキノにご飯の前にシャワーを浴びることをすすめたの、
マキノったらずぶ濡れでひどいもんだったから。
シャワーを浴びたあと、誰かのお古かな?どこかの学校のジャージを用意してくれていてね、くるくる髪の毛を乾かして居酒屋に戻ったら3人で宴会がはじまちゃって、結局なんだかんだで3時過ぎまで。♥
「浜さん日吉さん、本当にありがとうございます!
お風呂いただきました。あの、紹介が遅れました、あたしの名前は高島まきのといいます、出身は横浜で今は東京に住んでいました。
自分探しで旅をしていまして、…
夜中に突然にやってきて、こんなにお世話いただいて、本当にありがとうございます。」
「お礼なんてええよ、東京ってそら遠いところからようきやったな。
自分探しってなにか見つけはったん?」
「えへへ。今朝、東京を出たばかりで。何か、こんなことにになっちゃいまして。」
「高島マキノちゃんかぁ、う〜ん、どこかで聞いた名前だなぁ。」
♡浜、日吉、本当に楽しそうにしてるね、マキノを囲んで話に花が咲いているわ。チビメガネはのみすぎてつぶれちゃってる、そこにbeni5がいるのに。
マキノは日吉の作った遅い晩御飯を美味しそうに食べているわ、
なんかとても懐かしそうな顔をして「もぐもぐ、もぐもぐ」まるで子供みたいに。
あまりの食べっぷりに浜も驚いているわね。♥
「あの、マキノちゃんお味噌汁の飲んで泣いてはったけど何かあったの?」
「はぃ、あたしがまだ保育園の頃、おかあさんがお味噌を手作りしてくれてたんです、茹でたあついお豆さんを潰してしておかあさんといっしょにお味噌を造るのが楽しくて。
それがなんか…このお味噌汁と同じ味なんですよ。
買ってくるお味噌もおいしいのですけど、なんだか手作りって味に丸みがあるというか、すごく好きなんです。
そんなことを思い出しているとなんだかつい泣けてきちゃって。」
「そうなんやね、手作りでお味噌ってこだわりのあるお母さんやったんやね。お母さんは元気にしてはるの?」
「あの………あたしが小学四年生のとき、病気で他界しまして。
なんだかちょっとお母さんのこと思い出しちゃって。………
あの、そんなに重くうけとめないでください。昔の話ですからっ!」
♡うううう!浜も日吉も目頭を押さえて泣いてるの。
そらね、お酒が入って感情が高ぶっているかもしんないけどサ!
感極まってるからって、大の大人がそんなに目から大粒の涙を流してオイオイ泣くもんじゃないよ!
わたしもちょっと泣けてきちゃった「ぐすっ、ぐすっ」オカシイわね全部知ってるのにね。
まぁ、いいわ、とくに「浜」の心の奥に深く響いたようだよ。♥
「マキノちゃんいろいろと大変やったんやね、
もしよかったらやけど、自分探しをしてるんやったら、
ウチらの味噌作りの手伝いしてくれへんやろか?
人出も足りんし、若くて作ってくれる子がおらへんのよ、
ちょっとだけでもええさかいにマキノちゃんみたいな
若い子がいてくれるだけでもみな喜ぶわ。」
「ほんと、あたしでいいんですか、すごく嬉しいですっ!
今日のお礼もしたいですし、
久し振りにあのお豆さんの暖かさを感じてみたいのです、
なんだかワクワクするなぁ、浜さん是非お手伝いさせてください!」
♡突然に浜から味噌作りのお手伝いのオファーを受けて
びっくりしたというか、すごく喜んでいるみたい。
こんなに優しくしてくれた夜のお礼と、久し振りに触る味噌に心が高鳴ったのか、ふたつへんじにオッケーって。
誰かに必要とされるとこの子は嬉しくて頑張るタイプなのよ!
そんなこんなで、宴会は盛り上がり、新しい朝が来たわけ。♥
トントントン!トントントン!
♡おはよ、マキノ
小鳥も鳴いているし朝日もキラキラしてる。
ほら、グダグダ寝てないで起きなさいってば!♥
「ん?なんの音? てか、きのう見知らぬ人の家に泊めてもらったんだ。
なんだかいい匂いがするなぁ。懐かしい朝の香りだぁ。
くんくん、いいかおりぃ、ここすごくおちつく。
えっと、6時かぁ。そうだ!お味噌造り手伝うんだった!………
もう起きなきゃ!」
♡トントントン!トントントン!と心地よいリズミカルなまな板の上の包丁がネギを刻む音、昔は日本のどこでも朝に聞けた毎朝の音だよね。
キラキラと窓がら入ってくるやわらかい春の陽光。
寝巻きに貸してもらった赤いジャージの胸には小海と書いてあって
寝させてもらった部屋の雰囲気はちょっと昔に女の子が使っていたのかな?
っていう感じでだったの。
昨日まで暮らしていたマンションの無機質な素材の部屋ではなく
壁土や木の温もりが伝わる日本家屋。
マキノの記憶のどこかで嗅いだことのある、やさしくて暖かい香りにうとうとしながらも、身支度をして階段を降りていくと。♥
「ああ、おはよう!マキノちゃんよう寝られた?」
「はいっ、おはようございます、浜さん。
いろいろと親切にしていただいてありがとうございます。」
「いいんや、気にしんとき。それより結構飲んでたけど、
あんたお酒強いんやね。」
「おいしいご飯と楽しいお話で、つい飲み過ぎてしまいました。
伊香さんは帰られたんですね。」
「まだ奥で寝てるわ。朝帰りで嫁にこってりしぼられよるなぁ。
いつもは日吉となんか
昨日は楽しそうやったわ、それより朝ごはん食べるやろ。」
♡丸いちゃぶ台があって、「浜」は奥のコンロでお味噌汁をよそっている
鍋からは白い湯気がたちあがり日本の朝の香りが空腹を連れてくる。
マキノは初めて訪れた場所なのに何もかもが懐かしく、すこしだけ感傷的な気分にさせる不思議な家族的な空間。♥
「いやっ、そんな、
「何言うてんの、昨日いろいろ話したやん!ほんな水臭いこと言わんとき、
もう作ったさかいに食べい、マキノちゃんおかず取りに来て。
ほらぁ、日吉起きいや!あんた9時から商工会の
「もう起きてるよ、ああ、マキノちゃんおはよ。」
「昨日は本当にスミマセン。ついなんだか楽しくて飲みすぎちゃって!
ああ、その昨夜の分はあたし支払いますから!」
「いいよ!いっちゃんが無理にすすめたんだし、それに久しぶりに楽しい明るいお酒だったから、それよりさ一緒に朝ごはん食べよ。」
「ありがとうございます!作ってもらった朝ごはんってなんか久しぶりです。わぁ美味しそう、では本当にあつかましくてスミマセンが、せっかくのごちそうなんでいただかせてもらいます!」
♡かまどで炊いたご飯、お味噌汁、ふかふかプルプルした玉子焼き。
マキノの白い指先が綺麗に配膳していく朝ごはん。
まるで親子三代のように丸いちゃぶ台を囲んで、マキノは母親が他界してから忘れそうになていた「ふんわり」とした優い食卓を思い出したの。
マキノの
箸を往復させて浜の作ったものを掴み口に運んで、懐かしい感じの味噌汁のお椀に口をつけると、そこには何かメッセージが隠されているかのようで、その何かを確かめるために鼻の奥で深く味噌の風味を楽しんだの。♥
「やっぱり、このお味噌汁おいしいです!どことなく花のような香りがして、不思議ですね。」
「ああ、それはここだけに伝わる麹の香りや、でもマキノちゃんすごい味覚をもってるんやね、こんなに喜んでもらえるとは思わんかったわ。」
「このお味噌、浜さんが作っておられるのですね。ホントおいしいです!」
「嬉しいこと言うてくれるがな。ほな、ご飯食べたら「蔵」に行こか、このお味噌を作ってる工房のことや。」
♡周囲からは古臭いと言われながら、今はなかなか後継者が現れない弁天味噌。そんな中、ふらりと現れた若い女性が味噌に興味を示し、作業の手伝いを申し出たの。
たとえそれが今日だけだとしても、浜にとって涙がでるほどうれしいことだったの。
この地に住む女たちが作り繋ぎ続けた消えそうな伝統の灯火が、
また明るく
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