8/29 焼き肉の日

 大事な話がある。先輩にそう言われて来た場所は、焼き肉屋であった。

 個室焼き肉屋である。二人きりである。もちろん費用は先輩持ちだ。後輩を食事に連れてくるのだから、当然のことだろう。なんて言いつつ、普段は割り勘なのだけど。

 向き合っている先輩はといえば、無言であった。網で焼いている肉は、じゅうじゅうと音を鳴らしていて、よっぽど多弁である。肉の焼ける香りが広がって、いまにも食べられようと待ち構えている。

 黒焦げになってしまう前に、皿に移してしまう。栄養バランスなんて知ったことではない。肉肉肉のオンパレード。ごまの入った赤いタレにつけて、ふうふう冷ましてから、一息に口に放り込む。肉汁が舌にぶわあと広がって、幸せって、きっとこういうことだと思うのだ。

 そんな幸せな瞬間に、先輩から告白なんてされでもしたら、きっと受け入れてしまうだろう。色気はぜんぜんないけれど、その方が私たちらしいから悪くない。

 天岩戸のように、先輩の口は閉じたまま。だから私は先輩の口へと焼き肉を押し込んで、早く開けと急かすのだ。

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