先輩はスピーカーの中

 スピーカーから先輩の声が聞こえた。声が変だが先輩を自称しているので、とりあえずそういうことにする。

 先輩の身体は、どうやら悪人に盗まれてしまったらしい。抜け出してきた意識だけで、こうして私に助けを求めにきたという。どうして他の誰かではなく私に助力を求めたのか聞けば、一番暇そうだからと答えられた。心外な。

 抜け出せたのなら警察に行けばいいのに。たかが学生の私に何を期待しているのか。至極当然の疑問を問えば、悪人というのは国家権力にも根を張っていると返されてしまう。後輩をそんなことに巻き込もうとしないでほしい。

 仕方なしに、暇人である私は先輩を暇つぶしに助けることにする。スピーカーから応援してくれる先輩と力を合わせ、ドラマで例えるなら四クールくらいの奮闘の末、悪人たちの集まりを壊滅、遂に先輩の身体を取り戻す。先輩は透明なカプセルの中、全裸でたくさんの管に繋がれていて笑えた。装置を適当に弄っていれば、先輩の意識は肉体に無事戻り、肉声で礼を言ってくる。

 しかし、どうにもこれではない。私にとって先輩の声は、スピーカーから鳴る変な声で上書きされている。あの声はもう聞こえない。私の先輩は、きっともう、いないのだ。

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