琥珀の瞳も悪くない
後輩の琥珀の瞳は過去を映している。過去に囚われている、なんて比喩表現などではなく、文字通りの過去を。きっかり一年、後輩の視界には過去が映る。
後輩は他の人の時間から切り離されている。そんな後輩が重宝されているのは、優秀な頭脳あってのためだ。一年遅れの後輩の脳は、科学の上では最先端をひた走る。でなければ、こうして俺が介護みたいなことをすることになる訳もない。
後輩の時間は管理されている。インプットの為の時間。アウトプットの為の時間。最後に、息抜きのための散歩の時間。たかだか先輩というだけで、俺は後輩の散歩のお供に駆り出される。後輩は引っ張れば付いてくる。目だけ開いても居間を見ていない。人形を相手にしているみたいで気味が悪いが、日課になれば慣れもする。
一年が経ち、手を引く俺に、よろしくお願いしますと後輩は言った。
二年が経ち、隣を歩く俺に、ありがとうございますと後輩は言った。
三年が経ち、横たわる俺に、これからもよろしくねと後輩は言った。
朦朧とする意識。溢れる血。もう助からない。死の危機から後輩を庇ったのは優先順位の問題だ。天才の後輩が死ぬより、凡人の俺が死ぬ方がいい。馬鹿でもできる計算だ。
それに後輩の中で、あと一年は一緒にいられる。そう思えば、琥珀の瞳も悪くはない。
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