9/10 世界自殺予防デー

 たとえば、私が自殺しようとする。すると先輩が未来から止めにやってくる。なお、私を止めたあと、先輩は未来に戻れないものとする。

 未来から来た先輩は、いつも通りの先輩だ。なにせ明日の時間から飛んできたというのだから、代わり映えもないだろう。四次元に通じるポケットから秘密道具を取り出したりもしないなんてもっていない、丸腰の先輩。丸腰すぎて、戸籍もない。いや、あるといえばあるのか。にしても同一人物が同じ時間に二人もいるのだから、不都合なのは違いない。未来は変わり、世界は分岐した。先輩に帰る未来はない。仕方がないので、未来の先輩は私の家で飼うこととする。

 翌日、何食わぬ顔で学校に行く。先輩を見つけた。この時間軸の先輩は、恋人と二人で並んで歩いていた。私に気づいた先輩は手を振ってくる。私も振り返す。先輩の後ろ姿を見ながら、ほの暗い喜びが私を満たす。

 私が死んだあと、先輩はあの人ではなく、私を選んでくれたのだ。たとえ、それをしたのが目の前の先輩でなくとも、いま私が生きている事実は、想いが報われなかったことを補って余りある。

 それにしても、私がもう一度死ねば、次は四人に増えたりするのだろうか?

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