9/11 公衆電話の日

 後輩は携帯電話を持っていない。だから連絡が来るとしたら、公衆電話からになる。何故そんな話をするかをといえば、後輩から電話が来たのだ。ひと月前に姿を消したはずの後輩から。

 どうやら後輩は、いまは剣と魔法の異世界でよろしくやっているらしい。最近よく聞く異世界転移というやつだ。ダンジョンを攻略中に公衆電話を見つけたので、こうして電話をかけてきたという。なんで異世界に、とか、どうしてダンジョンに公衆電話が、とか普通に疑問に思う設定だ。

 後輩は居場所がないとかつて話した。携帯を持っていないことも、固定電話を使わないことも、俺に電話をかけてくることも、きっと関係している。

 後輩は異世界の話を大仰に語ってくる。昔からそうだった。十円で一分にも満たない通話時間は、何一つ重要ではない雑談に費やされる。顔も合わせていないから、虚言も誇張もなんのその、だ。仮に本当に異世界にいるとしても、言葉通りの大冒険をしているかは怪しかった。

 後輩の話が止まる。電話がもうすぐ切れるのだろう。また電話してこいよ、と言ってやれば、日本円とテレホンカードが見つかれば、なんて設定通りの返事。

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