後輩掌編集

9/19 苗字の日

　後輩の苗字が毎日変わっている。認識しているのは俺と後輩だけ。

　俺は誰に対しても苗字呼びをしている。意地でも後輩の苗字で呼ぼうとするが、毎回変わるため分からないので本人に尋ねていたところ、苗字の変化を認識しているとバレた。そうして二人だけの、さして面白みのない秘密ができる。

　後輩の苗字を毎日のように観測しているが、どうにも規則性がみられない。変わらないのは苗字が変化するタイミングだけ。日付が変わるとき、別姓同名の同一人物へと変わる。文字数や画数に統一性はない。たまにスミスだのアンダーソンだのになるから、国籍さえ怪しい。たまに日本に五人しかいないような珍しい苗字が出ると、朝のニュースの星座占いで大吉を引いた程度に嬉しくなる。変わる側からしたらたまったものではなさそうだが、本人はいたって慣れた顔。

　そうして観察していると、ふと疑問に思う。もし後輩が結婚して苗字が変わるとどうなるのか。しかし後輩は一向に結婚する気配はない。仕方ないので、俺は後輩と結婚することにした。

　入籍した翌日、俺の苗字は変わっていた。実験結果を話すため、俺は後輩の名前を呼んだ。