8/30 国際失踪者デー

 失踪した先輩は、いまも必ず生きている。私はそう信じていた。そうそう死ぬようなタマではない、というのもあったが、十年経ったいま、それはもはや祈りだった。

 だけどいまさら急に私の前に顔を出した先輩に、果たしてどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 十年の間に、高校を卒業して、大学に入った。バイトをして貯めたお金で、先輩のことを探したりもした。いま、私は警察官になった。ぜんぶぜんぶ、先輩と会うためだ。先輩ともう一度話すためだ。

 それが、私の努力となんの関係もなく会えるだなんて、こんな棚ぼた、納得いかない。

 これまでの私の人生は、先輩と会うためにあった。それでも、これからどう生きればいいのかもわからない、なんてことはない。先輩を探す中で、人を捜索する技術だってついた。きっかけは先輩だとしても、いまの仕事に誇りだってある。

 かつての私にとって、先輩はすべてだった。でもいまはちがう。

 私は先輩に驚いて、怒って、笑える。そんな自分が、ほんの少し嫌だった。

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