8/31 野菜の日
人間には、動物の肉が必要なくなった。
人口増加や気候変動を経て、元より問題視されていた動物食は過去のことだ。いまでは野菜だけでも必要な栄養素を摂ることが可能になっている。家畜の肉を食べるだなんて一部の人里離れた民族か、あるいは物好きな富裕層ぐらいしか食べることはない。豚や牛の肉なんて、私のような庶民には関係のないことだ。
そしてこの時代において、肉を食べる唯一の機会とは、葬式だった。死者の肉を、遺族が囲んで食べる。普段野菜しか食べない私たちが、生命の命の重さというものを、故人の肉を食べることを通して学び直す機械なのだ。
ところでいま、私は警察から逃げている。先輩の死体を盗んだからだ。死体を盗んでも罪状は死体損壊罪。死体に手を加えても、死体損壊罪。損壊は損壊で変わらない。先輩の肉も骨も、全部胃の中に収めるから、死体遺棄にはならないか。
これも全部、先輩が悪いのだ。死体の肉は、遺族しか食べられない。もうすぐ死ぬからと、結婚だってしてくれなかった。だから私は先輩の赤の他人だ。こうするしかなかった。
先輩の肉は、とろけそうなほど甘かった。
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