9/6 クレームの日、妹の日

 先輩の妹からクレームが来た。先輩は、自宅では私の話ばかりしているらしい。流石に辟易すると言われてしまった。正直照れる。が、未来の義妹に悪印象を持たれることは避けたいので、クレーム対応をすることとする。

 翌日、私のことが好きすぎるのは構わないのだが、あまり自分の妹に私の話をするのは、思春期の教育上良くないのでは、というような内容をそれとなく話す。

 しかし先輩は目を丸くして、それから自分に兄妹はいない、などと言い出した。そんな馬鹿なと思ったのだが、どうにも本気で言っているらしい。連絡しようとしたはずが、神隠しのように電話番号さえ見つからない。先輩の家には、先輩と両親以外の部屋なんてなかった。

 思えば最初に出会った場所も、共通の友人さえ記憶にない。私が先輩に興味を持った切っ掛けは、先輩の妹から話を聞いたからだ。なのに当人がいないだなんて、前提が崩れてしまう。私は一体、何と一緒にいたというのか。

 波が引くように、気持ちが失われていく。構成要素は欠落した。隣の相手が誰かさえ疑わしい。先輩の顔さえ、もう見ることができなかった。

 私が先輩と呼んでいた人は、きっと以前と同じ私の先輩ではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る