変わるのならば貴方がいい

 後輩は日に日に化け物に近づいていた。まだ人型を保っているが、既に角やら羽やら尻尾やらが生えてたいそう賑やかになっている。

 原因はキスであった。後輩は私にキスをするたびに、その身を異形に不可逆的に変えてしまう。彼女はキス魔で、マウストゥマウスでなくてもキス判定は降ってくる。彼女が私の額に背中に尾骨にと口づけるたび、彼女の姿は変わっていく。

 前から一方的に話しかけて来るような子だったが、ここまでではなかった。自分がキスで化け物になると分かってから、彼女は一線を超えるようになった。私はされるがままだった。キスをすると幸せになれるのだと笑う彼女を、私は理解できなかった。

 やがて変わり果てた後輩は世界と敵対することになる。怪物の宿命だ。とはいえ現代に英雄はいない。負ったとしてもかすり傷。それでも彼女は化け物ではない部分に傷を負うたび、治すためだとキスをしてきた。

 遂に後輩の人の部分は口だけとなる。そして私の化け物である部分も口だけだ。彼女はキスを介して、私の呪いを肩代わりしていた。全部の呪いを引き継ぐまで、あと一度。

 私は後輩と最後のキスをする。唇と唇でする、初めてのキス。彼女の柔らかな唇が石のように硬く冷たくなる名残惜しさを、幸福と呼ぶのだろう。

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