悪魔の証明

 悪魔が願いを叶えてくれると言うので、私はいなくなった先輩を願う。

 悪魔の用意した先輩は、私にとって理想の先輩であるように振る舞ってくれる。困っていれば何も言わずに手助けしてくれた。ベンチに座るときはハンカチを引いてくれる。空腹になればご飯を用意してくれる。雨が降れば車で迎えに来てくれる。ホラー映画を見た夜は一緒に寝てくれる。でも私の先輩は、こんな先輩ではなかった筈だ。なので私はクーリングオフを要求する。けれども悪魔は悪徳行者なので無視されてしまう。先輩は私の隣に置いていかれる。

 こうなると、もう先輩と向き合うしかない。私は先輩が本当に先輩であるのか、先輩しか知らない筈の質問をする。果たして、先輩の魂は本物らしい。先輩は願いを叶えてもらい、悪魔に魂を渡していたのだ。

 ところで私は偽物だった。先輩が願って、私は先輩の死んだ筈の後輩の影絵として生み出された。先輩に違和感を覚えるのも、私が本物ではないからだ。

 さて、そうと分かれば憂いはない。先輩が本当に先輩であるかも些事だ。私は新たな後輩として、先輩を落とすと決める。略奪誘惑なんのその。もういない後輩だって気にかける必要はない。張り切る私に、先輩は昔みたいに微笑んだ。

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