夏が遅れてやってくる

 異常気象の前に、どうやら夏は身を引いたらしい。日本の四季は春梅雨秋冬となり、灼熱の日差しとは永遠にお別れみたいだ。

 山開きも海開きも形だけのものとなってしまう。元がどんな意味合いだろうと、それらは夏でなければ意味がない。

 先輩と海に行くことをたいそう楽しみにしていた私は、よほど表に出してしまっていたか、それはもう気遣われてしまう。先輩は代わりにプールに行くことを提案するが、私は謹んで遠慮する。年中いつでもいけるような場所では意味がないのだ。侘び寂びのわからない先輩である。

 それからも夏が来ることはなく、私は大学を卒業して就職した。夏があったことさえ忘れてしまったとき、日本は急に常夏の島になる。

 夢の中で、先輩が私に語りかける。不甲斐ない太陽の代わりに、先輩が太陽になったらしい。だからといってやりすぎだ。何より、先輩がいない夏に意味はないじゃないか。相変わらず風情のわからない先輩だった。

 翌日、先輩が家に来た。太陽になったのではなかったのか。いやあれは夢か。浮き輪を担いで、太陽みたいに笑う先輩に、ようやく夏が来た気がした。

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