先輩とパンを作るだけ
先輩がパン作りに凝り始めた。お昼時には作りすぎた大量のパンを周りに押し付けていたので、私も受け取る。
昼食代が浮いた、だなんて手放しには喜べない。受け取ったフランスパンの硬さは如何ともしがたいものがあった。パンの硬度のギネス記録でも目指しているのだろうか。バリバリと食べる顎の強い先輩が今は恨めしい。
先輩の上達は見込めず、一方でパンの硬さはより増していき、遂には先輩のパンを食べる人は私以外いなくなる。私も持ってきたスープに浸けて食べていまけど。
そんなわけで、私は先輩のパン作りを手伝うことにした。幸い部室には調理に必要な器具が揃っていた。先輩になにかを教えることも、先輩と二人で過ごすことも新鮮だ。
そうして先輩はあっけないほどに上達した。さあ、これでおいしいパンが食べられるぞ、そう期待していたのだが、先輩はあっさりパン作りをやめてしまった。次はクッキー作りらしい。期待してろと言っていたが、先輩のことださぞかし硬いに違いない。
私と先輩との間には何事もなく、先輩は卒業し、私と先輩との交流は途切れた。先輩は私の知らないどこかで何かをしている。それだってきっと続かないだろう。先輩の意思は、あのとき食べたフランスパンほど硬くはない。
それでも、パンの匂いに包まれた部室が、いまは少しだけ恋しい。
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