世界の果てでもついていく
先輩に豪華客船の旅に誘われた。持つべきものは金持ちの先輩である。
しかし、いざ船を前にしたとき、私はこの旅で死ぬんだな、と察した。だっていかにも沈みそうだ。殺人事件が起きたと聞いても驚かない。
豪華客船の旅で死ぬことができるのなら、きっと一般人にとっては上等すぎる死に方だ。にも関わらず、私は事件に巻き込まれない。事件自体は起きているのだが、先輩に部屋から出してもらえない。軟禁されている私は、ふかふかのベッドに顔を埋めて先輩を待つ。ロイヤルでスイートな部屋は安全だけど、一人で過ごすには大きすぎる。
食事を持ってくるとき、眠るときにだけ先輩は部屋に戻ってくる。揺れる船の中、私が眠れないでいると先輩は手を握ってくれる。まるで新婚みたいですねといえば、照れたように手を離されてしまう。
やがて、先輩が部屋に戻らない日が続く。ある日、ドアの隙間からメモが入れられていた。誰が来ても部屋に入れるなと、見慣れた字で書かれている。
誰が来ても、というのは、先輩自身も含まれているのだろう。けれども私は先輩が来たとき、迎え入れてしまうに違いない。
だって私はこの船を前にしたときから、先輩になら殺されたっていいと決めている。
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