一寸先のガムシロップ
やめておけと注意したのに無謀にもブラックコーヒーに挑戦したものだから、後輩はコーヒーの中に落ちてしまった。
真っ黒な液体は、細目で覗き込んでも一寸先も見えやしない。果たして後輩は生きているのだろうか。コップの縁でしばらく待っていると、瓶詰めの手紙が浮かぶ。彼女はコーヒーの底の街で元気に暮らしているらしい。しかしコーヒーの中は、彼女の子供舌にはいささか苦いらしい。
俺はミルクとガムシロップを用意して、コーヒーに混ぜる。もうこうするくらいしか、後輩を甘やかせられないのだ。多少の環境破壊は見逃してほしい。
彼女が暑いといえば氷を入れて冷やし、寒いといえば温めたコーヒーを追加で入れていく。そうこうしているうちに、コーヒーはカップから溢れる。溢れたコーヒーは、やがて世界中を飲み込んでいく。
俺もコーヒーに飲み込まれていた。牛乳が混ざって少しブラウンな視界は、やはり一寸先も見えることはない。時間も場所もあやふやなまま、俺は歩き続ける。
気づけば、俺は誰かに手を取られていた。その姿が見えることはない。きっとあの日に掴めなかった手を、離さないよう握り返す。
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