犬ではないので

 捨て犬を見かけたのだが、そのとき一緒にいた相手が先輩なのが良くない。私は血も涙もなく利己的極まりない人間なので犬畜生を見捨てることなんて造作もないのだけれど、他ならぬ先輩の前でいつものように振る舞うのは流石に躊躇われてしまった。そして非常に残念なことに、先輩は博愛精神の塊だが、同時に犬アレルギーでもあるのであった。

 仕方なしに、私は捨て犬を拾い、自宅で養い、里親募集のビラを配る。先輩は犬アレルギーにも関わらず私の家に来て、あれやこれやと口を出しに来る。目を真っ赤にしてくしゃみがとまらないのに話してくるのは正直邪魔でしかなかったが、一緒に作業をするのは嫌いではない。

 何事にも終わりが来るように、私と犬と先輩の日々も終わりを迎える。捨て犬の里親が決まったのだ。犬がいなくなれば、先輩が来る必要もなくなる。しかし、犬が出た後も、先輩はうちに入り浸る。その上、私がまるで捨て犬みたいな顔をするから、などと言いがかりをつけてくる。甚だ心外だ。私は犬でもないし、里親なんて捜してない。それでも先輩がそう言うのであれば、都合よく解釈してやろう。下手に餌をあげた報いを受けさせてやるのだと、私は内心ほくそ笑む。

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