9/4 くじらの日
いま世間を騒がせている、東京湾を泳いでいるクジラ。あれ、私の先輩なんですよ。知ってました?
なんて人に話したら、私は黄色い救急車に連れて行かれてしまうだろう。でも事実なのだから仕方がない。むしろ、声が聞こえない他の人間が悪い。
先輩だって悪いのだ。五十二ヘルツならばまだ分かる。しかしクジラとなった先輩の声は、私にしか聞き取ることができないのだ。ならば気にかけずにはいられない。聞こえてしまうのだから、無視できるはずはない。
私は日に一度、先輩に会うため港に行く。とはいえクジラの耳は物理的に遠い。一方的に話を聞くだけとなる。それでも先輩は背中から潮を吹いて喜ぶものだから、私が頭からびしょ濡れになることに目を瞑れば、いいことだ。
クジラになった先輩と話せるのは、喜ぶべきことだ。それでも時折、不安になる。先輩は私に話していないのではないか、なんて考えてしまう。海の藻屑となった先輩が、クジラに生まれ変わるわけがないと、全部幻聴でしかないと、時折正気に戻される。
それでも先輩にまた会えるなら、私は狂気に沈むことさえ構わない。
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