無粋もなければ伝わらない

 後輩は私に何をするにしても、事前にやることを宣言して私の了承を待つ。心臓が弱い私にとっては、その配慮だけでだいぶ助かる。にしても人を崖から突き落とすのはよくないと思う。本当に死ぬかと思った。

 私が一つも断るそぶりを見せないものだから、最初は控えめだった後輩も、今では無茶振りにためらいがない。殊勝に先輩と呼んで慕ってくるが、果たしてどれだけ真に受けてもいいものか。

 興味本位で、初めて後輩の宣言を断る。後輩は相当ショックだったようで、私をナイフで刺し殺す。それも事前に宣言済みで、了承済みのことだけど。

 死体になった私は後輩の家に連れていかれる。こんな風になった私に対して、後輩は変わらず、何をするにも了承を求めてくる。死後硬直で固まった肉体は、声を出すことはおろか、首を縦にも横にも動かすことができない。だからわざわざ殺して家に連れ込んだのに、後輩は律儀に指一本触れることさえしてこない。

 そのうち後輩は、私の隣で横になる。口に出してはいないけれども、これくらいならいいですよねと、後輩の揺れる瞳が言っている気がした。

 君のすることなら私は何でも受け入れるよと、伝える手段があればいいのに。

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