8/21 献血の日
献血部、と心の中で、密かに呼んでいる。
同じ学校の制服。身長はちょっと高め。顔はほどほど。ネクタイの色から見るに、たぶん先輩。その人は、月の最初に駅の近くの献血ルームで必ず見る人物。
別に、同じ時間に来ると言ってもなにを話すわけでもない。今日もいるな、と認識しているだけの距離感。向こうだって、こっちのことは気づいているだろう。流石にそこまで無関心ではない、と思いたい。
献血前後の控え室ではお菓子も飲み物も食べ放題だ。最初は喜んだそれも、知り合いがいる中では、心置きなく食べられない。いっそ話しかけようとも思ったが、なにせほとんど赤の他人だ。会話の糸口が掴めないコミュ力底辺な我が身が恨めしい。
そんな折、転機が来た。私が来たのと入れ違いに帰る彼が、献血カードを落としたのだ。カードには住所氏名など個人情報もろもろが書かれているのだが、流石に見ないように裏返す。手に取った際に、血液型だけは見えてしまったけど。
そうして追った先で先輩は車に轢かれていた。献血する量より遙かに多い赤が流れている。彼が救急車に乗せられるとき、私は彼のものだとカードを渡した。そして共に車に乗り込んだ。彼は数千人に一人の特殊な血液型で、何の偶然か、私も彼と同じだった。
共通項はあった。次に先輩と会う日が待ち遠しい。だから、早く目覚めて欲しかった。
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