8/27 独立記念日

 手紙を燃やしている。封を閉じたままの何十個もあるそれを、一つ一つ火に焼べて、灰へと変えている。

 せっかく海に来たというのに、浜辺で鼻歌を歌いながらたき火を燃やしていく私を、先輩は怪訝な目で見ている。私が頼んで車を出してくれたのは先輩で、それでもここに来るまでも、来てからも、何一つ尋ねてくることはない。

 先輩が何も聞かずにいてくれて心底助かったし、そんなだから私はこうする羽目になったのだ。

 私が燃やしているものは、先輩に送られることのなかった恋文だ。恋文なんて、今時流行らない。送る気もさらさらなかった。自分の中にたまったものの掃きだめとして、私は誰に読まれるわけでもない想いを書き連ねていただけだ。

 そんな悪癖も、これでおしまいだ。もうすぐ先輩は、ここではないどこか遠くに行ってしまう。もう、これまでのように会うことはできない。やがて私も日々の忙しさに、先輩への想いを忘れてのうのうと生き続けてしまうだろう。

 だから墓標を立てるのだ。祝日を作るのだ。

 今日が私の、先輩からの独立記念日だ。

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