9/2 くつの日
一足の靴が私の後ろをついてくる。
人が、ではない。靴が、だ。履いている人もいないのに、真っ黒な革靴がてくてくと。ゆっくり歩けばゆっくりと、急いで走れば駆け足で、こちらと歩調を合わせて後ろについてくる。こちらが弱っていくのを待つ殺人鬼のような所業だ。これにはたまらず、電話で先輩に泣きつく羽目になった。
駆けつけた先輩がに語るには、その怪奇な靴は、私の履いている靴に好意を抱いているらしい。つまりは私ではなく、安もののスニーカーが目的ということだ。
そんな馬鹿なと半信半疑ではあったが、しぶしぶと靴を道に置いて、先輩と電信柱の陰で様子を見る。暗がりから革靴が現れて、私のスニーカーに近づいてきた。それから一分過ぎたあたりだろうか、なんと私の靴も動き出し、共に暗がりへと消えてしまった。どうやら先輩の話は的中したようだ。共に消えたということは、想いを遂げられたに違いない。めでたしめでたし、なのだろう。
というわけで、私の靴はなくなってしまった。靴下は残っているが、このまま歩いて帰るなんてもってのほかだ。そういうわけで、今日は先輩に背負ってもらってのご帰宅となった。大団円である。
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