大事なものは箱の中に
髪を触らせてもらった翌日、後輩は長い黒髪をばっさり切ってきた。不快にしてしたかと問えば、後輩は「記念に保存したいので」とタッパーに入れた黒髪を見せてくる。
そんな風に答えられてしまえば、私は後輩のことが触れられなくなる。うっかり触ったりでもしてしまえば、後輩の身がどうなるかわかったものではない。
だというのに、私の視線は後輩に釘付けにされていた。ばっさり切った髪の下、露わにされたその場所の、まっさらなうなじ。白い肌が、私のことを魅了する。
うなじといっても、そこは首だ。髪を切り離すのとは訳が違う。最悪の事態を念頭に、私は自制する。けれども後輩は、ちらちらと服の隙間から覗かせては誘惑してくる。
遂に私は誘惑に負け、後輩のうなじに触れてしまう。後輩は顔を真っ赤にさせて、それから駆け足にその場を去った。
翌日、彼女は生きていた。当然だ。まさか自分の首を切る筈もない。しかし不躾なことをしたのは間違いない。謝ろう、そう考えて近づいた私の横を、後輩は気づいた風もなく通り過ぎていく。私は呆然と、遠くなるその背を見送る。
後輩は、いったい何を切り離してしまったのか。何に封をしてしまったのか。
私は自分の首を撫でる。しかし何も起こらない。
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