8/22 はいチーズ!の日

 先輩には昔の写真がない。というのも、先輩は吸血鬼であるからだ。

 吸血鬼は鏡には映らない。カメラは鏡の反射によって撮影される。よって、吸血鬼はカメラに写らない、とは先輩の話であるのだが。

「いや、ミラーレスのカメラとかありますよ」

「えっ、なにそれ」

 私の指摘に、先輩は心底驚いている様子だった。私もカメラには詳しくはないが、本当に写らなかったのかさえ怪しい。なにせこの先輩は、十字架やニンニクに加えて機械にも弱いクソ雑魚吸血鬼だ。

 そしてちょうど、私の手にはカメラがあった。

「じゃあ、さっそく撮りますよ」

「待って待って。髪型とか整えるから。こう、吸血鬼として威厳ある感じに、ね?」

「ないものは写せませんよ」

「ひどい!」

 先輩にとって、私といる時間も瞬き程度なのだろう。だからせめて、形に残したい。

 抗議を無視して腕をとり、さん、に、いち、と合図をする。慌てる先輩なんてお構いなしだ。とびきり変な顔をして、忘れられない写真になればいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る