8/23 ウクレレの日

 先輩が画面の向こうでウクレレを弾いている。

 疫病が蔓延し、隕石が降り、人心乱れるこのご時世だ。異国の地に住んでいる先輩から久しぶりに連絡があったとき、多少なりとも安心してしまったのは事実。しかしいまは、その気持ちの十分の一でも返して欲しかった。

 人の気持ちも知らないで、先輩は慣れたようにウクレレを鳴らす。世界中が慌ただしい中、先輩はハワイでウクレレを練習していたらしい。まったくいいご身分である。

 私の内側の悪態も、次第に先輩のウクレレのリズムに掻き消されていく。練習を始めて数ヶ月とは思えない上達度合いでも、そう驚くことではない。先輩は何でもできる人なのだ。

 演奏を終えたあと、とってつけたように先輩が「そっちは元気でやってるか」と聞いてきた。「先輩ほどには」なんて答える。「そうか」と淡泊に続けて「まあ、頑張れよ」とだけ言われて、早々に通話が終わってしまう。

 通話を終えたあと、部屋の無音が耳に痛い。なんでもできる先輩は、側にいないのだ。だから私は、私だけで頑張らなければいけない。

 耳元に残る、陽気なようで、ほんの少しもの悲しい先輩のメロディが、私を少しだけ勇気づけてくれた。

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