第39話 恋をしてるのですか、おっぱい様


「……ま、まゆり? どうしたの!? 今日はずいぶん早起きなんだね!?」


 制服姿の美少女が、やけに焦った様子で私に尋ねてきます。

 乱れた制服や、綺麗な銀髪おかっぱを指先で直し、


「びっくりしたー。おかげでさっき見た星座占いのラッキーアイテム、全部吹き飛んじゃったじゃったよ、ボク、珍しく一位だったのに」

「ああ、すみませんです、コトリ。……夕べ寝落ちしてしまったみたいで」

「……ということは、……まゆり、またお腹出して寝てたんじゃないの? ……まったく、何度言ったらわかるんだい。女の子に冷えは厳禁だっていうのに」


 そう言って唇を尖らせる彼女は、貝塚言理。

 年齢は十六歳で同い年です。そしてその、私の……同居人であり、幼馴染であり、次期……あ、これは別に紹介しなくてもいいですね。……あと、何より大事なのは、属性です。コトリはいわゆるボクっ娘さんというヤツなのです。


「……それにしても、最近夜更かしが多いようだけど、何かあったの? かと思えば、この間はやけに早く起きたと思ったら、朝食も食べずに登校してた時もあったよね?」

「えー、そうですかねー? 別に何も……」


 言いかけて、私の脳裏にある人物がよぎります。


 ……現野くん。


 思えば最近、あのおっぱい教徒さんと知り合ってからというもの、私の生活習慣はどうにも乱れがちになっているように感じます。川上君との早朝デートの件も、勝手にアポをとってきた現野くんのせいですし。寝ブラを始めたのも彼の……、


 ……あれ?


 こうして改めて考えてみると、私って、最近現野くんのことばかり考えてません?

 毎晩彼との乳首ドリルを思い出しては興奮し、それを繰り返すことが唯一の癒し、だなんて。……なんか、もう、これって、


『……恋、とか?』


 コトリが発する言葉と私の脳内言語がシンクロし、私は思わず驚きの声を上げます。


「ええ!? ――わ、私、そうなんですか!?」

「え、ぼ、ボクに聞かれてもッ! というか、まゆり、心当たりあるの!?」 


 途端に焦ったように聞いてくるコトリへ、


 ……。


「……ないコトは、ない、ですッ」

「ななないことはない!? それって恋ってことッ!? 恋してるってことなのかい!?」


 あわあわと可愛らしい顔を真っ赤にするコトリ。

 しかし私は彼女のことなど思考の枠からすぐに消えて、


 ――恋ッ!!


 一人で腑に落ちていました。


(――確かに私の現野くんの乳首への思いは、もはや恋と言っても差し支えないレベルなのかもしれません!! なるほど、言われてみれば納得です。そう、これは、この思いは単なる趣味嗜好ではなく、純粋な、おっぱい様への、恋心なのですッ)


 ウンウン、と自分の見解がまとまった充実感にひたる私。

 ふとコトリへ目をやると、


 ……あれ、何やら思いつめたような顔?


「……コトリ?」


「あ、ごめんよ、まゆり。ボク、もうそろそろ行かないとッ」

「あれ、もう行くのですか? 忙しいですね?」

「ちょっと大事な用事があって。心配しなくてもちゃんと朝食は作っておいたから安心してよ」

「それは大変助かるというか、いつもありがとうございますなのですが……」

「とにかくボクは急いでいるから行くよ。じゃあ、また、学校で」

「あ、はい……また」


 颯爽と銀髪を揺らしながら、コトリが去っていく。


 ……なんだったんでしょう、さっきの表情。それに、こんなに早い用事って一体……?


 ぐるぐると私の頭の中でいくつかの思考が回転するも、


 ……。


 私はそれらを、すぐに放棄しました。

 なぜなら。


「……二度寝しましょうッ」


 私は再び身体をベッドへ投げ出し、惰眠の世界へと再度フルダイブを試みます。


 ……もちろん、愛しの『現野乳首』を心に想いながら。



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