第5話 おっぱい様と犯罪者予備軍


「おっぱい様にあやまれぃッ!!!」


 何もかも中途半端でくすぶっていた僕が、

 ついに、おっぱい様への信仰を見出したあの日。

 同時にこの僕、現野夢人の、「社会的生活」は終わりを告げ、また一人、非社会的生活者、別名、ひきこもりの変態が誕生した。


 だがその後、そのひきこもりの変態が、とある異世界に転生し、その命運を握る勇者になるとは、


 ……誰も思いもよらなかったッ。(キリッ)


「…………」



 ……みたいな展開だと思った?

 残念! 現野でした。

 そんな心躍る、チートでハーレムな異世界転生的展開になるはずもなく!(なったらいいと今、世界で一番思っているのは、間違いなくこの僕だ!泣)


 ――僕は翌日の学校で、周囲の視線にひたすら冷や汗をかいていました。


 ……ええ。結局、登校しましたよ。いやね。むしろ結果が見えないまま、あれこれ悪く想像してしまう方が地獄だなんて、思わなかったんですよ、実際。昨日はビビりすぎて一睡もできないまま、結局、完徹のテンションの勢いだけで来ちゃいましたよ、ええ。……無計画? 何言ってるんですか、忘れたんですか? 僕、現野夢人は同級生の乳房を「様」付けした挙句、罵詈雑言ぶつけてハァハァしてた異常者なんですよ? ……何を今さら、っていう感じですよ、ホント。まぁ、今の気持ちを強いて言わせてもらえば、こうですかね……。


「……死にたい……」


 僕の呟いた言葉に、隣の席にいた女子生徒二人が驚いてビクっと身体を震わせる。そのまま訝しげな瞳で僕を見つつ、教室からいなくなってしまう。


(『うわ、なんかあの、『おっぱい様』の声が耳に入っちゃったッ、耳洗浄してきてもいい?』『ええ大丈夫ッ? 洗うだけじゃなく、腐らないように保健室で消毒してもらってこよッ?』……みたいなこと、考えてるんですよね、わかります……)

 ……ああもう、悪い方向へしか考えがいかない。


 はぁ、とため息をついて、僕は机に突っ伏す。

思えば、ザ・地方都市の中堅校である、この豊房高校に入学してから、一年とちょっとが経つ。クラスの端っこで、密かに陰キャながらに「楽しいキャンパスライフ」改め「無害なおっぱいライフ」を曲がりなりにもそれなりに充実して過ごしてきたのに。

(……それも、ここまでとは)

 これからは、唯一の楽しみ「選胸眼」を向けるたびに、「キモッ」と女子に避けられる、そんな灰色の実害キャンパスライフを過ごさなくてはならないらしい。

 ……。

 いや、むしろそれが普通なんですけどね。卑猥な視線を女子に咎められるのは、むしろ当然のことなんですけど。……でも。


(……それでも、おっぱいのない普遍の日々に、一体何の意味があるというのです……!)


 ならばいっそ、自らの社会的地位の全てを犠牲にしてでも、おっぱいだけは……! そう、おっぱいだけは……!


「……はッ」

 危うく反社会分子になりかけていた思考を引き戻し、

(……いや待てよ、この際Mに鞍替えして、キモがられる状況を楽しめるようになればいいのでは?)

 発想の転換から、今のさらに上をゆくレベルに特殊な道へと、舵取りをしかけんとしていた、その時でした。


――机の中に、宮歌まゆりからの手紙を見つけたのは。




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