第6話 お断りします、おっぱい様


「お断りします」

 

 昼休み。

 目の前にいるのは、今や学校一とも言われはじめた金髪ニューアイドル。

 呼び出された校舎裏で、僕は。


 ――まるで学校一の美少女に身の程もわきまえずに告白し、案の定きっぱりフラれるモブキャラ男子みたいに、はっきりと、すっぱりとお断りされていました。


「……」


 ……なんでしょう、この無駄に残念な気持ち。


「……き、聞いてますか? 繰り返しますが、お断り、だと言ったんです……!」

「……あの、……僕、告白とかしましたっけ?」

「告白? ……何、言っているんです……?」

「あ、いや、何でもないですぅー! こっちの話ですぅー! ……で、すいません。結局僕は、何を、『お断り』されたのか、よくわかっていないんですが……」


 すると心外だったのか、彼女は少しムスッとした様子で、


「……それは、もちろん、昨日の発言についてですよ!」

「……昨日の発言? 正直思い当たることがあり過ぎて、……もっとこう、具体的に言っていただかないと……」

 自己防衛反応からか、ぼーっとして昨日のことを素早く思い出せず、僕が惚けていると。

「あの、だから……!」とG92釣鐘が続けた。


「あなたが昨日、最後に言った言葉について、です!」

「……えー、……つまり?」

「――『忘れてください』って言いましたよね、あなた」


 ……え?

 次の瞬間、彼女の発した言葉の意味するところを悟った僕は、思わず全身を緊張させる。


「……あれ、お断りします、って言ってるんです」


 G92釣鐘改め、宮歌さんの表情がキッと硬くなる。


 ……つまり何? 彼女は昨日のセクハラ発言を心底許せず、『出るとこ出て徹底的に糾弾しますので、忘れるとかお断りします』って意味でのお断りってこと?


 ……。


(……いやいやいやいや!何コレちょーマズんですけど!! ……え! え!? マジで終わりじゃないですか!えー!? ガチだよコレ、ガチの終了だよ僕の学校生活。冗談で『社会的生活の終わり』とか言ってたの全然笑えないんですけど! もう目前なんですけど!現実なんですけどーッ!?)


 顔面蒼白になる僕へ、宮歌さんは何やら、意を決したような様子を見せる。(!)

 その小さな唇が開いた時、僕は悟った。

きっとあの可愛い唇から、僕の日常を完全終了させる一言が語られるのだと。

 すぅ、と彼女が息を吸う音が聞こえ、

最後まで聞く勇気がくじけた僕は、耳をふさごうとするが。


「す」


 間に合わず……、


『すみませんでしたぁーーーー!!!』


 情けなく目をつむり、思わず大声で謝ってしまう僕。

 しばらくそのままカタカタと小さくなって震えていたが、「ん?」と、ある異変に気づく。

 ……気のせいだろうか。 

(耐え切れずに『すみません』と大声で言ったのだけど、しかし、その僕に負けるとも劣らない音量で、線の細い綺麗なソプラノボイスが、まったく同じ言葉をユニゾンスクエアガーデンした気がしたのですが……)


 恐る恐る目と耳を開放すると、

 目の前には。

 僕と全く同じ角度でシャチホコばって、

「……だ、だから、すみませんでしたっ、と言っているんです!」

頭を下げる金髪美少女、宮歌まゆりの姿があった。


 ……え?

 

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