第20話 狸寝入りと、おっぱい様

「ふううあおう」


 超絶眠たい授業時間が終わり、ようやくやってきた休み時間。

 昨日一昨日と睡眠不足が続くわが身には、世界史はちとツラすぎたのです。

 よし、こうなったら存分に惰眠をむさぼってやるんだからねッと、密かに心躍らせる僕へと、


「うーつつーのくーん?」


 どこからか声がかけられた。


 ……またまたー。


(もしかして今僕、誰かに話しかけられました? しかも声質的に女子じゃないですか。……女子? あはは、ないない。そんなわけないじゃないですか。ただでさえぼっちで陰キャな僕は、日常生活で人と会話なんかしないのに。……ああ、そうか、心の願望がついに無意識に脳へ変な信号送っちゃったんだな、……よし、寝よう)


 頑として動じず、そのまま机に突っ伏して寝るモードへ入る僕。

 しかし。


「あのー、起きてくださーい」

「……」

「私、ちょっと現野くんにご相談したいことがー」

「……」

「あのー、聞こえていますかー?」

「……」

「……もしかして、本当に寝てます?」


 しつこく食い下がってくる誤送信の連続に、僕は積み上げた心のバリケードをさらに厚くして、心地よい惰眠の世界へと……、


「……ラッキー☆乳首ドリルしちゃおッ♪」


 ガバッ、と。

 すぐ耳元で聞こえたささやきに、僕は本能的な回避行動をとる。

目を開けて確認すると、そこにいたのはやはり……。


「……み、宮、歌、さん?」


「おはようございます、現野くん。……やっぱり起きてたんじゃないですか。狸寝入りなんてひどいです!」

「えと、これはその……」

「――どうせなら、本当に寝ていてくれればよかったのに!」

「そっち?! 『ひどいです』ってそっち?!」

「当然じゃないですか! あともう少しであの甘美なる、ちく……」

「い言わなくていいから! ……って」

 

 そこで僕は、自分達へと向けられる周囲からの視線にようやく気付いた。


「……現野が人間と会話してる!? しかも、あの、まゆりんと!?」

「なんでなんで? それにさっき、まゆりんから話しかけてなかった??」

「いいなー、俺もまゆりんと話してえーー。……現野許すまじ」

「まゆりん優しいからだよー、癒し系だしー。だからああいう背景みたいな人にも、分け隔てないんじゃないかなー?」

「うおおー、まゆりんマジ天使―、俺、ちょおおとマジで告ってこようかなああ!!」

「……じゃあ俺がいくわッ」

「……いや俺が」

「「……俺が」」

「「「……俺が」」」

「……」

「……」

「……いや誰か譲れよ男子! 最後変な空気になってんじゃん!? てかそもそもネタ古くねッ!?」


 ……いい感じにつまらないショートコントまで出来上がってる始末じゃないですか。しかもさりげなく僕への心無いディスりまで入ってるし。


「なんだか私たち、ずいぶんな注目を浴びてるようですね」

 僕が心で涙を流しつつ、いたたまれない気持になっていることに気付いたのか、宮歌さんが耳打ちをしてくる。

「……少し場所変えましょうか、現野くん」

 宮歌さんが立ち上がり、僕を扉の方へと促す。

向けられる好奇の視線に耐え切れなくなった僕は、黙って彼女に従うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る