第9話 どっちなんですか、おっぱい様
「……昨日、あなたがとんでもない剣幕で言った言葉は、全てデタラメだったと。あのどこか情熱的で、全力で、真っ直ぐだったあなたの言葉は、気まぐれの偽物だったのですね。ただ転校生の私を困らせて喜ぶだけの、かまってちゃんの戯言だったと、そういうことなんですよね。……つまり」
「……あなたにとっておっぱいなんて、たかがその程度のものだったと……」
「――違う!!」
突然の大声に、その場がしんと静まり返る。
自らの失態に再び我に返った僕は、「あ、いや……」と言いよどみかけるが、
「もう! はっきりしてください!! あなたはおっぱいが好きなんですか、好きじゃないんですか! どっちなんですかッ!?」
「――もちろん、大好きだッ!!」
……そう口走ってしまったら、もう、止められない。
「ああ好きさ、好きに決まってるだろう、だっておっぱいだぞ!? ただ揺れているだけで周りに奇跡を振りまく、神の泉のようなこの世界の神秘! もうむしろ好きなんてレベルはとうに超えて、崇拝しているくらいだ! ああ、なんて尊い!なんて神々しいんだおっぱい様はッ!! たとえこの身が滅びようとも、おっぱい様への愛だけは消して消えることなどあり得ない! だからせめて、最後に言わせてくれッ!! ――『おっぱい様に栄光あれッ!』とッ!!」
気が付けば僕は、両手をそっと胸に添えて天を仰ぐ、信仰深いおっぱい教徒へと、化していた。
ふう、と息を整え……、
……あ。
「ああああああああッ!!!!」
自分の退路を盛大に爆破した、最前線兵士くらい八方塞がりな絶望の声。
(また、またやってしまった!!)
恐る恐る宮歌さんを見やるが、
「ぷ」
こらえきれなかったのか、両手を口元に当てながら、「あは、あはは」と笑い始めていらっしゃる。
(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい死にたい死にたい……)
僕は顔色を真っ赤にし、自分の言動のおかしな点を反芻する。
……。
……だめだ、何度繰り返しても、むしろ笑われる要素しかない。
そんな様子の僕を知ってか知らずか、宮歌さんはひとしきり笑ってから、「……なら」と口を開く。
「……おっぱい様に無礼なことをして、謝らなきゃですよね。……おっぱい様、ごめんなさい。これからはもっと、小まめに気を遣います、大事にします。……どうですか? これで、許してもらえますか、おっぱい教徒さん?」
驚くほど素直に、そして綺麗に、彼女は謝罪の言葉を口にした。その笑みには、ふざけている様子はおろか、見下したりているような様子は微塵もない。
「……え、あ、……はい」
「はぁ。よかったー、これで一安心ですー」
ホッとしたような顔色を見せる宮歌さん。
彼女の様子に虚をつかれながら、僕は静かに困惑を続けていた。
……どういうことだ?
まさか、本当におっぱい様に対する信仰に目覚めたということなのか。いやそれは、最初におっぱい様について話した時のリアクションを考えると、さすがに急すぎる気がするし。
……となると、彼女が僕に謝罪をするメリットなんて一体どこに……?
「ところで」と、続いた彼女の唇の動作が、僕を現実へ引き戻した。
「……あなたがおっぱい教徒だということ、クラスの皆さんはご存じないみたいですね?」
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